「シスター・シャーリー……大丈夫ですか?
無理はされていませんか?」

シスター・シャーリーは、優しく声をかけたギリアスの視線をそっとはずして俯いた。



「……私なら大丈夫です。
大臣は、私にもずいぶんと気を許して来ました。
これからは、もっとうまくやって、いろいろな情報を集めて来ます。」

それがどういうことなのか、ギリアスには容易に推測することが出来た。
情報を得るため…国王を救うために、シスター・シャーリーがどんな不快なことに耐えているかを考えると、ギリアスの胸は痛んだ。



「シスター・シャーリー…
もう少しです。
後少しで、すべてが終わるのです…」

それがギリアスに今言える精一杯の言葉だった。
ギリアスは、慈愛をこめシスター・シャーリーの手を力強く握り締める。



「ギリアスさん、心配なさらないで下さい。
私はこう見えても強い女なんです…
ただ……こんな汚れた身でありながら、修道服をまとうのが辛いだけです…」

「あなたの心はどんな修道女よりも美しい。
汚れている等と考えるのはおやめなさい…」

シスター・シャーリーは顔を上げずに、そのまま小さく頷いた。



「……では、また、なにか動きがあれば知らせに来ます。
国王への伝言もなんとかします。」

「ありがとう、シスター・シャーリー…
どうか、お気を付けて…」

背中を丸め、闇に身を潜めるように去って行くシスター・シャーリーの後ろ姿をみつめながら、ギリアスはなんとも言いようのないもやもやした気持ちを抱えていた。
今、自分達に出来ることは何もなく、ただみつからないように隠れているだけ。
その間にもシスター・シャーリーは、ずっと辛い目にあっている。
元はといえば、シスター・シャーリーを巻き込んでしまったのも自分なのだと思うと、ギリアスは今すぐにでも大臣を叩き切りたいという気持ちにかられるのだった。