「あなたという人は、なんということを……」

ギリアスは、シスター・シャーリーの告白に、拳を握り締め身を震わせる。
シスター・シャーリーは、泣き腫らした赤い瞳をギリアスの方に向けた。



「……しかし、私にはこうするしかなかったのです…」

「良いですか、シスター・シャーリー。
あなたはこのままこの城を離れなさい。
どこか遠く…そうだ!私の知り合いに手紙を書きますから、そこへお行きなさい。
……ここで起こったことはすべて忘れ、そこで静かに暮らすのです。
決してここへは戻って来てはいけませんよ。
シスター・シャーリー…なにか書くものをお持ちではありませんか?」

シスター・シャーリーは力なく首を振る。



「そうですか、それなら…」

「ギリアスさん…私はここを離れません。」

ギリアスの声にシスター・シャーリーの毅然とした声がかぶさった。



「シスター・シャーリー!
あなたはまだそんなことを…」

「……取り乱してしまって申し訳ありませんでした。
でも、もう大丈夫です。
大臣は、私のことを権力欲に満ちた野心家だと考えているはずです。
目的のためなら信仰を捨て身を投げ出すことも厭わない女だと…
それは、あの大臣と同類の女…だからこそ、私はきっと気に入られます。
ええ、絶対にそうなる筈です。
私は必ず…必ず、国王の救出に繋がる役目を手に入れてみせます。」

シスター・シャーリーはまるで自分自身に言い聞かせるようにそう言った。



「シスター・シャーリー、あなたにはまだわからないのですか?
それがどれほど屈辱的で…そしてどれほど危険なことなのかが…!」

「わかっています!
そんなこと、十分わかっています!
ですが……今やめてしまったら……私は一体何のためにこんなことをしたのか、わからない……」

感情が込み上げたのか、シスター・シャーリーはそこまで言うと、口許を押さえてそっと俯く。
ギリアスは、そんな彼女の様子を見て、その身体を優しく抱き締めた。



「……ギリアスさん?」

「……あなたのお気持ちはよくわかりました。
いくら止めても無駄なのですね。
……ですが、シスター・シャーリー…どうか約束して下さい。
どんな時にもあなたはあなたの命を守る事を一番に考えると…
危険だと感じたら、何もかも放り出して逃げるのです。
後の事は私達がどうにかします。
ですから……どうか、お願いします。
あなたの命を大切にして下さい。
あなたは……生きなければならんのです。」

「ギリアスさん…」

シスター・シャーリーは、ギリアスの優しい心遣いにゆっくりと頷いた。