「キルシュ、どうかしたのか?」

キルシュのどこか落ち付かない様子に、ギリアスが声をかけた。



「いえ…シスター・シャーリーが遅いなと思って…」

「時間の約束でもしているのか?」

「そうじゃないんです。
ついさっき中庭でお会いしたんですが、なんだか様子がおかしくて…」

「様子がおかしい…?」

キルシュは頷いた。



「……どうも泣いてたみたいに思えたんです。」

「シスターシャーリーが泣いて……」

その時、ギリアスの頭に浮かんだのは、ロジャーのことだった。
ロジャーの身に何事か良くないことが起こったのではないかという不安に、ギリアスは思わず立ち上がった。



「ちょっと見てくる。」

兵士達の心配をよそに、ギリアスは暗闇に身を潜めるようにして、中庭に飛び出した。
慎重にあたりの様子に注意を払いながら進むギリアスの耳に、押し殺した悲しげな女性のすすり泣きの声が届く。
その声を辿って行くと、茂みの影にうずくまるようにした細い背中があった。



「……シスターシャーリー…?」

その声に、女性の肩がぴくりと動く。



「どうかされたのですか?」

「……い…いえ、なんでもありません。」

シスターシャーリーは慌てた様子で顔を拭い、俯いたままギリアスの方へ向き直った。



「なんでもって…なんでもないことはないでしょう。
冷静なあなたがそんなに泣いてらっしゃるなんて…
シスターシャーリー、何があったんです!
言って下さい!」

「な…なにも…」

「シスターシャーリー!」

ギリアスが彼女の両腕に触れた時、シスターシャーリーは、思わず悲鳴を上げ、咄嗟に自分の口を塞いだ。
その奇妙な行動にギリアスは、目を見張る。



「どうしたんです?
シスターシャーリー…なにがあったんです!?」

心配そうにみつめる温かい眼差しに、シスターシャーリーの瞳からはぽろぽろと大粒の涙がこぼれ出した。




「大丈夫です。
大丈夫ですよ。」

ギリアスは、シスターシャーリーの身体を包み込むように優しく抱き締めた。
ギリアスの腕の中で身を固くしたシャーリーの涙は勢いを増し、静かに流れ続けた。