「……なんだ、泣いているのか?
それほど、不快だったか。」

ガウンを羽織ったターカスは、口許にいやらしい笑みを浮かべ、しのび笑いをもらした。



「そ、そうじゃありません…
ただ、いっぺんにいろんなことがありすぎて…
少し取り乱してしまっただけです。」

「そうか…
とりあえず、おまえの気持ちは良くわかった。
おまえのことは悪いようにはせぬから、これからもわしに仕えるのだ。」

シャーリーは、小さくこくりと頷いた。



「では、今夜は戻れ。
わしも何かと忙しいのでな。」

「大臣様…私にお役目を与えて下さり、そしてそれなりの地位に着かせて下さるというお約束は…」

「あぁ、そのことなら追って連絡する!
とにかく今夜は戻れ。」

「はい…」

シャーリーは手早く衣服を身に着けると、大臣に向かって恭しく頭を下げ、早々に部屋を後にした。

部屋を出た途端、シャーリーの頬を熱い涙が流れ始めた。
あの忌まわしい出来事を思い出すと、今にも大きな声で叫んでしまいそうになるのを懸命に押さえ、シャーリーは、庭へ向かって走り出した。
身体の痛みよりもずっと痛む心を抱えながら…



(ククク……清いものを汚すのはとても良い気分だ。
あの女は強い意志を持っておる。
燃えあがるような野心を持っておる。
……これは、ここの兵士なんぞよりすっと使えるかもしれんな。
相手があんな小娘…しかも、シスターだとなれば、誰しも気を許すだろう。
使い道はいくらでもありそうだ。
あの清き小娘をわしがまっ黒に染め上げてみせようぞ。)

ターカスは肩を震わせ、込み上がる笑いを押し殺した。







「あれ…?シスター・シャーリーじゃありませんか…
どうかなさったんですか?」

「い…いえ、なんでもありません。」

庭の片隅にしゃがんでいたシャーリーは、声をかけたキルシュに背を向けたまま、慌てて立ち上がった。



「あそこには行かれないんですか?」

「え、ええ…もう少ししたら行くつもりです。」

「そうですか……では、お待ちしています。」

キルシュは、どこか違和感を感じながらも、シャーリーと別れ、例の隠し部屋へ向かった。