「あぁ、うまかった。
ありがとう、キルシュ。」

セスとライアンは、キルシュの持ちこんだ食料をあっという間にたいらげた。
わけのわからない事態に巻きこまれ、慌しく過ごしているうちに食欲もどこかに飛び去っていたが、キルシュの持ちこんだ香ばしいミートパイの香りをかいだ途端、二人の腹の虫が騒ぎ出した。
キルシュと呼ばれる男は、ライアンよりもさらに背が低く、小太りで物静かな男だった。
この城の厨房で見習いコックとして働いているとライアンが紹介した。



「なかなか来ないから、どうしたのかって心配になってたんだ。」

「一緒に来る筈のレイシーさんに連絡が取れなくて…
それで僕だけ来たんだけど、僕だけじゃ心許ないから協力してくれる人を探してたんだ。
だけど、なかなかそういう人はみつからなくて……僕だけで行くしかないかと思ってた矢先、ちょうどセスが入って来たってわけなんだ。」

「そうだったのか…でも、良かったよ。
僕達は二人共腕っぷしにはまるで自信がないからね。」

キルシュは、そう言いながらセスの方に顔を向けて苦い笑いを浮かべた。



「それで、キルシュ…あれから何かわかったのか?」

ライアンのその問いに、キルシュは俯き首を振る。



「そうか……」

二人の話によると、国王を支持する兵士は相変わらず一ヶ所に監禁され、その数も日々減っているということだった。
すなわち、処刑されているということだ。
今、城の中を自由に動いているのは大臣に与した者達だけ。
国王と側近の幽閉場所はいまだどこなのかさえ皆目わからないという。



「それじゃあ、あんたらは、二人だけで国王を助け出すつもりなのか?」

「仕方がないだろ。
今はこういう状況なんだから。
きっと城の中にも国王を支持する者達はまだいると思うんだ。
でも、誰がそうなのかを見極める術がない。
僕達が、ある程度なんとかすれば、きっとその者達も名乗りを上げてくれると思う。」

「なるほどな…
それで、手始めにどうするつもりなんだ?」

「まずは、兵士達を解放しようと思う。
はっきりした場所はわからないが、牢があるのは地下だから、地下のどこかだと思うんだ。」

「俺達のいた牢の他にも牢があるのか?」

ライアンは黙ったままゆっくりと頷く。



「あんたのお祖父ちゃんも大変な設計をしてくれたもんだな…」

セスの言葉に、ライアンは苦笑いを浮かべた。