「それがそう簡単な事ではなかったんだ。
ルシアン様が搭で力尽きていたことがわかった時、今度は空に裂け目が現れた。
それだけじゃない。
ルシアン様の子供達、ジュネ様とラーク様の背中に翼が生え、二人は空の裂け目に向かって飛んでいったって言うんだ!」

「……空が裂けただって…?
それに子供達の背中に翼が…?」

「信じられないのも無理はない。
だが、僕も空の裂け目はしっかりと見たんだ。
そこから柔らかな虹のような光が差しこむのを僕は見た。
僕だけじゃない。
この国の者が大勢、その光景を見てるんだ!」

セスにはその話をどう理解すれば良いのか、わからなかった。
翼の生えた人間等、もちろん会ったこともなければ、現実にいると考えたことすらなかった。
それは、御伽噺の中での架空の話だと誰もが知っていることだ。
しかし、この城が天上界の者が作ったと伝承されているということと奇妙に符合するのはどういうことか?



(まさか…あの伝説は真実だったってことなのか?!
俺は今、過去に来てるってことなのか?)



「セス…どうした?
大丈夫か?」

「あ…あぁ…ちょっと面食らっちまってな。
でも…そのことと、今のこの状況はどう関わりがあるんだ?」

「それはだな…」

ライアンは、あたりを警戒するように声をひそめ、話を続けた。
それから数日後、ラーシェルとその側近達が捕えられ、側近の中にはすでに殺害された者までがいるという。
ラーシェルとルシアンが魔物と手を組み、この国を魔物に引き渡す契約をしたという嫌疑をかけられているということだった。
だからこそ、子供達はあのような翼を持ち、魔物の元へ行ったのだと…



「その噂を広めたのは大臣のターカスとその仲間だ。
ターカスはほんの数年前に学者としてこの城にやって来て、その後あっという間に大臣の座に上りついた男なんだ。
何かと胡散臭い男でな…きっと奴には以前からなんらかの企みがあったんじゃないだろうか。
そして、これを好機とそのような悪い案を思いついたんだろう。」

「だけど、翼に空だろ?
悪魔ならともかくその姿は天使そのものじゃないか。
なのに、それを魔物だなんて…なんで、皆そんな馬鹿馬鹿しい話を信じるんだ?」

「それが…ラーク様とジュネ様の翼は…赤い翼だったらしいんだ。
だから、魔物だと…」

「赤い翼……」

それが自らの流した血に染まったためだったとは、セスやライアンが知る由もなかった。