「お、おいっ!
待てよ!
なんで俺がこんな所に!お、おいっ!!」

番人は、セスの言葉には耳も貸さず、そのまま足早に去って行った。
セスは、叫ぶのを諦め、冷たい牢屋の床の上に腰を降ろす。



(あぁ、なんてことだ…
やっとあのおかしな森を抜け出す事が出来たと思ったら…こんなわけのわからない牢…あ……)

沈みこんでいたセスの顔に、突然、奇妙な微笑が宿った。



(そうだ……
俺は、あそこを出られたんだ…)

そう気付くと、セスには急に今の状況もそれほど悪いものだとは感じられなくなった。
つい先程まで、もしかしたら一生あの森の中でさ迷うことになるかもしれないと考えていたことを思い出す。
それに比べれば、セスにはこの牢の方がまだマシのように思えた。



(ここが普通の場所じゃないことはわかってる…
でも、あの森だって抜けることが出来たんだ。
きっと今度だって、なんとかなるさ。
それに……そうだ!もしかしたら、フォルテュナをさらった奴だって、俺と同じようにこの場所に迷いこんでるもしれないぞ。
あの時、スコットさんの家の方には俺がいた。
だから、フォルテュナをさらった奴が森の方に行った可能性は強いんだ。)

不意に思い当たった考えに、セスは大きく勇気付けられた。
それと同時に、なんとしてでもフォルテュナを救い出さなければならないという強い決意を新たにした。



(フォルテュナ、待ってろよ!
もう少しの辛抱だ!
俺は…弱い人間だが、友達を見捨てるようなことはしないぜ!)

その時、隣の牢からカンカンと柵を叩く音がした。