未来の表情が、どこか悲しげに見える。
これ以上を聞いてはいけない気がする。

けれども、これから先を聞かなければきっと結愛は自分のことが分からないまま完全に記憶を無くしてしまうかもしれない。



「未来、教えて。未来が知っている私のことを」



結愛の言葉を受け、未来は一度ゆっくりと溜息を着くと、結愛の視線が止まった窓際へ移動した。
結愛は視線で追うが、逆光によって未来の姿が見えづらく、表情も読み取りにくい。

体の向きは結愛へ向いているが、視線は外にあるため、斜め後ろを見ている状態で未来は話し始めた。



「ここは、結愛と彼が付き合い始めた場所だよ」



結愛の瞳が大きく開かれる。
思わず声を失うほどの衝撃が心を襲った。

ここは始まりの場所。

彼との時間が始まった場所。


結愛へ視線を移した未来の瞳が閉じられる。
何度か深呼吸するように、肩が上下に移動している。結愛は、立ち上がり、未来へ近づいた。
そして、未来の隣に立つと、窓際に手を置く。

その瞬間、緩やかだった風が少し強くなって教室へ流れ込んだ。
カーテンは大きくはためき、風の衝撃が顔を襲う。
思わず手で庇うが、隙間から見える夕日の光が気になり、庇う手から力が抜ける。