猫の世界と私

「ホント…」

「彼とここに来た時は、こんなに水族館が魅力的だと思わなかった」

「え?どうして?」

「だって、彼が隣にいたから」

「あ、なるほど。そういうことか」

「うん。水族館はあくまでも雰囲気。メインは彼とのデートだったから」

「で、その時の思い出は?」

「ん…そうね…彼は、あまり魚を見てなかった気がする…」

「見てなかった?見渡す限り魚ばかりなのに?」

「うん。なんというか、もっとこう遠くを見てたような感じかな」

「?集中してなかった、てな感じかな…?」

「そうなのかなぁ…話しかけた時に一応見てるとは言ってたんだけど…」

「彼はいつも遠くにいるイメージだったから、その時は気にはしてなかったの」

「そうなんだ」



結愛が未来の表情を伺う。
彼のことを話す時の声のトーンは高く、弾んでいる。
けれど、いつも表情だけは寂しげだった。

遠くを見て、思い出す未来の顔がマリンブルーの色に染められ、余計に切なさが際立って見える。

そんな未来の肩に、結愛はそっと手を置いた。

ゆっくりとした温かさが未来の肩から伝わってくる。