「行かないと…」


「俊介…?」


僕は、馬鹿だ。初めて人に馬鹿だと言われた相手は、ちゃんと僕を見ていてくれていたのに。


君の言う通り、僕は馬鹿な人間だ。



「彩美…僕は」

「いました!!小嶋 彩美さんと交際相手と噂になっている方です!!」


閑静だったこの場所に、たくさんの報道陣が押し寄せてくる。


「小嶋 彩美さん、梶井教授と不倫関係にあったというスクープがありますがお話聞かせてください」


「え、何…?」


彩美は怪訝な表情をしたまま、数歩後退りした。僕は反射的に土手を一気にかけ降りて、彩美と報道陣から逃げるようにして走り出す。


「俊介っ!待って!」



行かなきゃ…。



遅すぎるのは、重々承知の上だけれど。


僕は、行かなきゃ…


腹の奥から沸き上がる、息が出来ないほどのこの痛みの意味は…


あぁ、そんなこと考えている場合じゃない。



瀬戸さんがもう僕に会いたくないと言っても、僕は…――――



温かさで溶けてしまう、その前に。




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