「彼女…ではない」
「へーぇ。相変わらずモテるんだね、俊介」
「盗み聞きなんて、趣味悪いぞ」
やっぱり、出なければ良かったと思う。
「盗み聞き?聞こえたんだもの。でも俊介と付き合うなんて、並大抵の女性じゃ無理だよね」
「どういう意味だ」
少し、ムッとした。彩美は全然気にしていない様子で続ける。
「だって、俊介って変わり者だもの。変な所潔癖症だしさ」
トランクからスーツケースを取り出して、彩美に渡した。
「ねぇ…離れて思った。私は、俊介が必要…」
「…もう、夜遅い。ゆっくり休んだ方がいい」
「じゃあ…また。おやすみ」
彩美は、ホテルの中へ入っていった。それを見届けて、ため息をつく。
吐き出したい程、胸の奥に何か引っかかっているような不快感があった。
それは時々首を締め付けるように、息をすることさえ苦しくなる。
「何なんだ…」
まるで水面下にいるみたいだ。
瀬戸さんの電話の切り方も、彩美の告白も…
アクセルを踏み込んで、日付が変わった夜の街を走っていく。
何故、こんなに苦しいのに空虚な気持ちになる。
僕は…僕は…
何を感じているのか。
『私は、俊介が必要…』
「いや…違う…」
『さようなら』
さようなら?
君はいつも電話を切るとき、そんな言葉は口にしなかった。
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