「じゃあ、彼女が海外に行かなかったら…」


「それはどうでしょう…いずれにせよ、別れていたと思いますよ」


「なんで?」


まったく、この人は。

そう思ってフッと笑いがもれる。


「結局僕の恋人は、研究です」


「松井 俊介って、大バカ者ね」


「初めて馬鹿と言われましたね」


あからさまに怒って、膨れた顔が面白くて笑ってしまう。


「人は一人でなんか生きていけないもの」



「そうですね。僕も知らぬ間に誰かに支えられて、生きているんだと思います」


冬の空は、どこか寂しい気がするけれど。
僕は好きだ。

空虚で殺風景な薄い青が、安心する。


「あたし、あの時あなたに会ってなかったら…」


「カゼ引いて寝込んでいたでしょうね」


何があったかは聞かない。

でも、今に消えてしまいそうなくらい彼女は悲しみに満ちていた。

ドラマや小説でしかないシチュエーションだと思っていただけに、驚いたけれど。


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