五日目。

鳥の声で目が覚めるが、霧は晴れていないのだろう、薄暗い。

ヒグマの臭いは途絶えていない。

どこかで、もしくはテントのすぐ側で様子を窺っているのか。

皆、黙りこくっている。

沈黙が数時間。

昼頃、足音が復活。

しばらく歩き回った後、また消える。

夕方、大介が勇気を振り絞って、僅かにテントの口を開けて外の様子を窺う。

「霧が、少し晴れている」

僅かに太陽の光が届き、晴れる兆しが見えた。

すぐに降りるべきだ、と主張する側と、明日まで待つべきだという側に分かれた。

まだ熊がすぐそこに居るかもしれないし、今から下山を開始すれば、夜を休憩も出来ないような登山道の途中で迎える事になるのは明白だった。

完璧に霧が晴れた訳でもない。

悪天候でしかも夜に慌てて行動するのは事故の元だ。

リーダーとして、下山を許す事は出来なかった。

恐怖の中、冷静な判断だったかは分からない。

ともかくも、その日はそれで日が暮れた。

誰も会話をしない。

恐怖からだけでなく、パーティの考えが対立した事に大きな原因があった。

その晩も熊は周囲を巡り、時折追突をしてきた。

誰も眠らない。