7月16日。

アスファルトに照り付ける日差しは強く、街行く人は皆汗を流している。
必要最低限の外出だけで済ませたいと思っていても社会人や学生はそうは行かない。
夏休みも間近であり、それを励みに何とか外に出る…。
そんな調子ですらあった。

とはいえ、そんな事は彼―柿本祐には関係無かった。
高校二年生の祐は不登校である。
課題、担任の圧力、嫌いな教科、苦手なクラスメイト、陰湿な虐め、その全てから祐は逃げ出した。
まるでそれが当然だと言うかの様に引きこもった。

(逃げてない。正当防衛だ)

祐は誰かに引きこもりや不登校を責められると必ずそう思うことにしていた。
でないと泣き出しそうで、でも言い返す事も出来ない。
正確には言い返せない、ではなく、言う事自体が不可能なのだが。

柿本祐に声は無い。
数年に続く虐めと家族や教職員からの不理解は祐から助けを求める手段を奪った。
然しながら何の因果か彼が声を失った事により周りはやっと事の重大さに気付いたのだ。
助けを求められ無い現状の上に置かれた祐は差し伸べられた手を跳ね除け、自分の世界に篭った。
正当防衛だと信じて疑わずに。

声が出ないなら全てに関係は無い。
祐は自分自身の不登校による両親の不仲に無関心を貫いた。
あくまでも部外者であると言いたげに顔を合わせず話に加担しなかった。
学校に行かないことも、声が出ない事も、何においても自分は悪くない、と。
逃げではない。正当防衛なのだ、と。
祐は耳を塞ぎ続けた。

柿本祐は、そういう人間だった。
正当化された自分を正しいと信じて疑わない、酷く正直な少年だった。