・・・といきなりそっと俺の背中を誰かの手がさすった。と同時に声がした。

「大丈夫?」

その声を聞いたとたん、俺は泣きそうになった。
なんでだろ・・・なんでこんな時ばっか・・・

俺は振り返らずに軽く首を振ると、水を流し洗面所に行った。
そして、汚れた手と口を拭いてうがいをした。

「ここ、男子トイレじゃん」

「あ・・・なんか声がしたから・・・他に誰もいなかったし」

あせったようにリーちゃんが言って後からハンカチが差し出してくれる。
俺は軽く会釈するとそれを受けとった。


「前にも・・・ハンカチ借りたね・・・」

俺はしゃがれた声で後ろにいるりーちゃんに言った。

「・・・・・・」

「なんか、中谷にはさ・・・変なとこばっかり見られてるよな・・・」

両手を洗面台について体を支えながら俺はうつむいた。

「なんか、今日顔色悪かったよ。無理してたんじゃない?」

「大丈夫・・・」

俺は手を振った。

やせ我慢だったけど、りーちゃんの前でこれ以上醜態をさらしたくなかった。


「だめ!もう帰った方がいいよ」

今まで聞いたことのない強い口調に俺は思わず顔を上げた。
鏡にりーちゃんの心配そうな顔がうつっていた。

「みんなにはうまいこといっといてあげるから・・・ね?」

りーちゃんの声に俺は肩の力が抜けた。
自分でもわかっている、もう限界だって・・・

あー俺はこんなことに意地も張れないぐらいボロボロなんだ・・・
俺はもう彼女に逆らわなかった。

りーちゃんがそっと取って来てくれた鞄を受けとると、ありがとうも言えずにそのまま黙って外に出た。

情けない一日・・・
情けない俺・・・

そうやって、俺が仕切った情けない土曜日が終わった。