なんてことない学生生活なんだと思ってた。
幼なじみの空とつき合うようになって約1年。
高校2年に上がる新学期、1人の教師が赴任してくるまでは。

「今度の教師は元ヤン。にぃにの友達」

空の話、最初は流して聞いてただけだった。
というか、なんで警察官の兄貴に元ヤンの友達がいるのかさえも謎だ。

「空、そういえば今日ちゃんと薬飲んできた?」

「うん。ほら、なくなってるでしょ?」

そういって誇らしげにピルケースを見せてくる空。
そもそも高2にもなって薬を嫌がるのも俺としてはどうなのかと思うレベルである。

「そんなことより、部活行こうよ。きっともぉボール出してくれてると思うよ?」

「お前も一応マネージャーなんだから働けよ」

と、口では言うものの、できるだけ体の弱い空には負担をかけたくないとも思うわけである。


保育園の年中、5歳のときに空は小児がんにかかっていた。
本人は思い出すのも嫌なくらい辛かったという。
俺は、保育園から突然お隣の家でいつも一緒に通っていたはずの空がいなくなってしまったという記憶しかない。
さらに病気は素直に完治してはくれず、小学校5年で再発。小学校の卒業式どころか、中学の入学にも間に合わなかった。

そんな空が途中から入るのに誘ったのがバスケ部。の、マネージャー。
もともと俺がバスケ部にいたのがでかいんだけど、空の兄貴もバスケ部で、空はバスケが好きだったから。

「がんは完治しても、健康な体は手に入らなかった」


南帆の体には、今も病気が潜んでいる。
喘息と狭心症。どちらも一歩間違えば死に直面するかもしれない。
そんな空のことを守りたいと思うようになったのは、いつごろだっただろうか。