私の名前は、佐藤ゆい。何の変哲も無い女子高生。
「行ってきまーす!」
いつものようにサンダルに足を突っかけて出て行こうとするが、玄関の新品のローファーを見て目を見開いた。
今日は私の高校生としての初めての日・・・、そう入学式。
こんな日に限って寝坊してしまうなんて。
一刻の猶予も無い中、丁寧にローファーに足を通す。ぎゅっと足を圧迫して変な感じだ。いつもとは違う靴の履き心地が新しい日常の幕開けを示唆しているように感じた。
「ゆい、パンくらい食べていかないと!」
ローファーに足を通して、ドアノブに手をかけようとするとママが後ろからそう呼びかけた。
大体、起こしてくれなかったママが悪いんじゃない・・・、
喉まで出かけるが、ここで口論になってしまえば遅刻は確定的だ。
そう言う代わりに、ママが持っていたお皿から食パンをドアノブを握るほうと逆の手で掴み、口に運んだ。
「ちょっと!行儀が悪いわよ!」
私はママが言い終わらないうちに家を飛び出した。

遅刻、遅刻!
心の中で何度、そう唱えただろうか。
スカートをなびかせ私はひたすら走った。
途中で交差点に差し掛かる、
赤だ・・・
思い切り歩行者用の信号機をにらみつけるが青にはならない。
ふと、時計を見ると時計は7時40分をさしていた。
まずい、あと10分だ。いらいらと焦りがこみ上げてきた。
変な汗が額に流れる。
青信号に変わるや否や陸上選手並みのスタートダッシュで横断歩道に飛び出した。
急げ!急げ!
必死にひじを振り上げ、地面を足で蹴る。
もう学校まではすぐだった。この交差点を曲がれば・・・!
交差点を曲がろうと重心を傾けた瞬間だった。
体に強い衝撃が走る。
続いてお尻に衝撃を受ける。
人とぶつかったのだと気づくのに時間は要らなかった。
痛みはほとんど無い。それよりも焦りのほうが強かったからだ。
まずい・・・、頭に良くない可能性がよぎる。
相手が怖いお兄さんだったらどうしようか、高級な服に実を飾った貴婦人で汚してしまった私に洋服代を請求されたらどうしようか、そう考えると変な汗が止まらなかった。私の不安とは裏腹に空は信じられないくらい澄み渡っている。
すると、私の視界にぬっと影が伸びてきた。
「だ、大丈夫ですか?すみませんでした。」
顔を上げるとそこにいたのは私と同じくらいの年に見える男の子だった。
背後に太陽の光をまとった彼はもう信じられないくらい不細工だった。