「僕は、君に言ったよね。
ここは、黄昏の町って呼ばれてるって…」

アンリの言おうとすることが、フォルテュナにはわからない。
そのことでどこか苛つく気持ちを押さえ、フォルテュナはアンリの次の言葉を待った。



「……つまりね。
この町を出れば、空の色は変わるんだ。
空の色が変わるってことは、違う町に着いたってこと。」

アンリが得意げな顔で小さく微笑む。



「そういうことか…
じゃあ、この町の隣は普通の空なの?」

「さぁ…僕はこの町を出た事がないからね。」

「出た事がない?一度も…?」

「そうだよ。
僕は、オレンジ色の空しか知らない。
だから、このままで良いんだ。
違う空は…見たくない…」



「君は意外と頑ななんだね…」

言いかけたその言葉を、フォルテュナは飲みこんだ。

それは、思い出したから…
泉の外に出てみたい等と考えたことのなかった自分自身と同じだと気付いたから…



「そっか…
じゃあ、僕が見て来るよ。
この先の空がどうなってるのか確かめて来るよ。」

「……うん。」

アンリは少年のように屈託のない笑顔を見せた。
それは、フォルテュナにとっては少し意外な反応だったが、そんなことはどうでも良いと思える程、気持ちの良い笑顔だった。
フォルテュナは、知らないうちに笑顔になっている自分に気付く。



「じゃあ、僕…行くよ。」

「もう…?」

その問いに、フォルテュナは黙って頷く。



「オレンジの空が好きになってしまう前に発たないとね…」

アンリは、フォルテュナのその言葉に嬉しそうに微笑んだ。