「お帰りなさい、フォルテュナ様…」

その声をきっかけに、まるで、術から覚めたように周りの光景が違っていることにフォルテュナは気がついた。
その場所は紛れもなくコトノハの泉…そして、その声の主は、フォルテュナの額に触れたあの男…
呆然と言葉を失うフォルテュナの身体は、いつものようにふわふわと宙に浮かんでいた。



「楽しんでいただけたようですね…」

「き、君は一体…!」

狼狽するフォルテュナを見て、男はくすりと笑う。



「僅かな間に、あなたもずいぶんと人間らしくなられたものですね。」

その言葉に、フォルテュナの頬は赤く染まった。



「君はこんなことをするためにわざわざここへ来たのかい?」

「私は、最初にお尋ねたした筈です。
こんな所でくだらない人間の話を聞く事にうんざりされているのではないか…と。
あなたはその問いにお答えにはなられませんでしたが、他所へ行かれた…
それはすなわちあなたのお心がそれを望んでいたから…」

男はどこか見下したような瞳でフォルテュナをみつめた。



「……君の言う通りかもしれないね。
僕はここを離れたいと考えていたかもしれない…」

男は大袈裟な素振りで驚きを顕わにした。



「天邪鬼なあなた様のお言葉とは思えませんな。
あの体験が、これほどあなたに影響を及ぼすとは…」

男の口端が皮肉に上がる。



「……なぜ、君はこんなことを?」

「それは先程…」

「僕のため?
それとも、君の愉しみのため?」

男は質問の意味を理解したと言わんばかりに無言で何度も頷く。



「……それは、どちらでもあり、どちらでもありません。」

「……なるほどね。」

まともな答えが戻って来ることを期待していなかったフォルテュナは、投げやりに答える。



「それで…君はこれで満足した?」

「それは私の質問です。」

フォルテュナは、小さく鼻を鳴らして答えた。



「あんなので満足なわけないじゃない。」

「……それはようございました。」

フォルテュナの顔に苦い笑みが浮かんだ。



「なんでも、満足しきれないくらいが一番良いんですよ。
……あなたはそうは思われませんか?」

「さぁ…どうだかね…」

男はフォルテュナの不機嫌な声を察したのか、作り笑いを浮かべた。