「俺は…あの子達に何もしてやれなかった。
それなのに、あいつらは俺に不満を言うどころか、こんな俺を慕ってくれる…
……それがとても辛かった。
だから、逃げ出したんだ…
洞窟の向こう側にへ行ってしまえば、きっとあいつらとはもう二度と会うことはない…
もちろん、洞窟の浮こうへ行くのが夢だったっていうのは嘘じゃない。
でも、今まで誰にも成し得たことがないことだ。
それはほぼ不可能なことだと思ってたんだ。
でも…このまま、あいつらの傍にいるくらいなら…そう思って逃げ出したんだ…」

「でも、彼らは君のせいであんな風になったわけじゃあ…」

「そういう問題じゃないんだ!」

それは、今までセスの口からは聞いたことのない感情的な声だった。



「……俺はいつだって何も出来ない…」

一瞬にして曇ったセスの横顔を見ながら、彼には何か深い心の傷があることをフォルテュナは悟った。



「……そんなことないよ。」

「フォルテュナ…どうやったら金儲けが出来るんだろうな?
俺は昔から金に執着がなくてな。
金が一番だと考えてる奴らのことを軽蔑さえしていた。
……でも、金さえあれば出来る事ってのは山ほどあるんだよな。
心なんかなくたって、金さえあれば救えるものがこの世にはたくさんあるんだ。
だが、このあたりじゃたとえ一日中働いた所で、奴らに良い暮らしをさせてやれるだけの金は稼げやしない。
俺は無力だ…この年になっても小さな時と何も変わらない…」

「セス……」

その時、フォルテュナの脳裏をよぎるものがあった。



(そうか…だから、君は、あの時、お金がほしいと言ったんだね…
彼らのためのお金がほしかったんだね…)



「ごめんな、フォルテュナ、変な話しして…」

「変なことないよ。
セス、もっと君の話を聞かせてよ。」

「……ありがとう。
あんたは優しいな。」

「そんなことないよ。
僕はあまのじゃくで意地悪なんだから…」

その言葉にセスは穏やかな笑みを浮かべた。



「本当にその通りだな。
……フォルテュナ、あんたと出会えて良かったよ。」

「……僕もさ。」

「あれ~?あまのじゃくがそんなこと言って良いのか?」

「……たまにはね。」

二人は微笑み、固い握手を交わす。



「フォルテュナ、あれが俺の家だ。
……あ、俺、ちょっとランプの油を借りて来るから入っててくれよ。」

そう言ってセスは鍵をフォルテュナに手渡し、走り去った。