その光景に、その場にいた者たちは言葉を失い、ただ呆然と二人をみつめるだけだった。



「父様…私…一体…」

痛みが幾分安らいだのか、それとも目の端に入ったものに驚いているのか、ジュネがすがるような瞳をラーシェルに向けた。



「姉様、背中に、つ…翼が…!!」

ラークの叫びにも似た声が響く。
それと同時に、使用人の若い女性が甲高い悲鳴を上げ、その場から駆け出した。
数人の女性がそれに倣って駆けだし、男達はじりじりと後ずさりを始める。



「お、おい…皆、どうしたんだ…」

ラーシェルの言葉に答えるものはおらず、彼らの視線は二人の子供達から離れない…



「と…父様…
どうしたの?
皆が……」

数人で固まってひそひそと小さな声で何事かを囁いている者達、城の中に逃げ去ってしまう者、腰を抜かして倒れこんで入る者…
彼らの瞳に共通するのは、畏れだった。



「……ジュネ…ラーク…
行きなさい…」

「え…?父様…今、なんと?」

「行くんだ!
あの空の裂け目に…!」

「な、なにを言ってらっしゃるの?」

ラーシェルはジュネをラークを力いっぱい抱き締めた。



「父様……?」

「いいか、よくお聞き。
どこにいても私はおまえ達を愛している。
それだけは信じていておくれ。
……さぁ、あそこへ飛ぶんだ。
そして二度とここへは戻って来るんじゃない。」

「い、いやだよ。
僕、そんなこと…!」

「いいから、言うことを聞きなさい!」

今まで見た事もない父親の激しい剣幕に、ジュネはラークの手を取り父の元から退いた。



「さぁ!早く!」

「ぼ…僕、どうやったらいいかわからない…!」

泣きじゃくるラークの横で、ふわりとジュネの身体が浮かび上がり、繋いだラークの腕が上がる。



「あ……」

「大丈夫…歩くのと一緒だわ…
さぁ、ラーク。」

「う、うん…」

ラークの翼が小刻みに羽ばたき、彼の身体もジュネと同じように浮かび上がった。
二人の身体は、少しずつ少しずつ、空へ近付いていく…

その場にいた者達は大きく目を見開き、その様を食い入るようにみつめていた。



(ジュネ…ラーク…
どうか、幸せに…)

ラーシェルは、大きく手を振った。



「ま、魔物めーー!」

その時、城から飛び出して来た兵士が二人に向かって槍を投げ付けたが、幸い、槍は二人の横をかすめただけだった。



「ジュネ、ラーク!
早く…早くあの場所へ!」

ラーシェルは、あらん限りの声で叫び、空の裂け目を指差した。