しばらくして、搭の上の方から物音がしたかと思うと、兵士の一人が叫びながら飛び出して来た。



「ラーシェル様、ルシアン様が!」



その一言で、ラーシェルはルシアンの身になにがあったかを悟った。
足元からくずれ落ちそうな感覚を感じていた時、ラーシェルの瞳に担架に乗せられたルシアンの姿が目に映る。



「ルシアン!」



そこにいたルシアンは、六年前の輝くような彼女ではなかった。
げっそりと痩せ細り、自分の倍も年を取ったように見える彼女は、それでもとても安心しきった顔をしていた。



「ルシアン…」

自分のすべきことをやり遂げたとはいえ、誰にも看取られずたった一人で旅立った彼女に、ラーシェルはかける言葉がみつからず、その口から飛び出たものは叫び声だった。
六年分の様々な想いが複雑に絡み合い、壊れた心から吹き出した血のような叫び声だった。
ラーシェルは、国中に響き渡るような声をあげ、ルシアンの亡骸に取りすがる…



「と…父様!」
騒ぎを聞きつけたジュネとラークは、その場の光景に言葉を失い立ち尽くす。
誰もラーシェルに近付くことは出来ず、城にいた者達はただ遠巻きにその様子を見守るだけだった。



「あ…あれは…」

不意に明るくなった空に、使用人の一人が空を指差す。
見上げる空に小さな裂け目が現れ、そこからなんとも言いがたい柔らかな光が差し込んでいた。
その光は徐々に広がりを見せ、虹色の光沢を身に纏っていく。



「い…痛い…」

その光景に皆が見とれている最中、姉のジュネが顔をしかめ、その場に突っ伏した。
その後すぐに弟のラークが同じような様子でその場に倒れ込む。



「ジュネ様!ラーク様!
どうなさったのですか!」

その声にラーシェルの叫び声が不意にやみ、子供たちの元へ駆け寄った。



「どうした!
ジュネ、どこが痛いんだ!」

二人は、苦しげな息の元で玉の汗を流し、苦悶の表情を浮かべている。
ラークは痛みに耐え兼ねたのか、時折、甲高い叫び声を上げた。



「しっかりしろ!」

医師が二人に駆け寄ろうとした時、その場に一際大きな叫び声が響き渡り、二人の背中が盛り上がったかと思うと、そこから血肉の欠片が弾け飛んだ。



「こ、これは……!!」



二人の叫び声が続く中、その背中からは赤く染まった大きな翼が姿を見せた。