「な、なに?
それは本当なのか?」



ラーシェルは、声を荒げ使用人に詰め寄った。
それは、彼が食料を運んだ際に、いつも聞こえていたあの歌が聞こえなかったという報告だった。
彼はいつも決められた曜日の決められた時間に搭に昇る。
この六年間、一日も違わずその行為を繰り返してきた。
いつもなら搭の中程あたりからその声が耳に届くのだが、それが今日はなく、食料を置いて下に降り着くまで、まったく聞こえなかったというのだ。
使用人の報告に、ラーシェルは不吉なものを感じた。



「すぐに搭へ昇るのだ!
もし声をかけても返事がなければ、鍵を壊して中へ入れ!」

ラーシェルの命により、数人の兵士と医師が搭へ昇り始め、
ラーシェルと子供達は、目も眩むような高い搭を見上げ、ルシアンの無事を祈った。



「父様、母様は無事ですよね?」

「当たり前だ。
もしかしたら、熱でも出しているのかもしれないな。
でも、すぐに治るさ。」

「毎日、お歌を歌われているから、のどを痛められたのかもしれませんね。」

父子は、心に渦巻く不安を払拭するかのように、そんな話を続けていた。



「ラーシェル様、まだずいぶんとかかりますゆえ、中でお待ち下さい。」

「いや…私はここにいる。
子供達のことを頼む。」







兵士達が昇り始めた頃には茜色だった空は、いつしか闇に閉ざされていた。
煌く星と細い三日月が、憂い顔のラーシェルを映し出す。



(ルシアン、どうか無事でいてくれ…)

祈るような気持ちで、ラーシェルは搭を見上げた。