空の様子どころか、搭に上ってからもうどのくらいの日が過ぎたのかさえ、ルシアンにはわからなくなってきていた。
他のことにはなるべく気を取られないようにして、とにかく天へすべての気持ちを向けるようにと言われていたため、ルシアンの部屋にはラーシェルや子供達を思い出すものは何も置いてはいない。
ただ一つ、大切なオルゴールだけは持って来ていたが、それも引き出しに仕舞ったまま、一度も開けることはなかった。



ウィリアムは、あれから国に戻って来ていない。
彼の向かった先は、船で数ヶ月もかかる遠い大陸の国だということだ。



(それにしても遅い…)
ラーシェルは焦る気持ちを押さえ、辛抱強く彼からの連絡を待った。









それからさらに三年の年月が流れた。

空の漏斗はほとんどその姿を消し、
その色も、黒から灰色に、そして本来の青い色に戻っていた。



「父様、母様はもうそろそろ帰ってらっしゃるわよね?」

「そうだな。
……うん、きっと帰って来るさ。
もう少しの辛抱だな!」

ラーシェルと子供達は青い空を見上げ、希望に胸を膨らませていた。
これで、天界は救われた。
六年という歳月は短いものではなかったが、これでまた親子揃って幸せに暮らせる…
ラーシェルと子供達はそう信じて疑わなかった。

ウィリアムからはその後も連絡がなく、さすがに心配になったラーシェルは手を尽くしてウィリアムの消息を探したが、その行方はようとして知れなかった。

昨年の台風の際、城壁にヒビが入り、その修復の際にラーシェルは城壁を高くし、そこにあの文字を刻むことを思いついた。
それは、ラーシェルのちょっとした悪ふざけで…
ルシアンがそれを見たらきっと恥ずかしがるだろうとの想いからだった。
きっと、ルシアンは頬を赤らめ、ラーシェルに食ってかかる…
かといって、他の誰にもそこに書かれている内容はわからない。
二人だけの幸せな悪ふざけ…
城壁に刻まれた文字を見る度、ラーシェルの顔にはとても穏やかな微笑が浮かんだ。