瞬く間に三年の月日が流れた。
ラーシェルは、ルシアンの言い付けを守り、一度も搭には上がらなかった。
母親に会いたがる子供達をなんとかなだめ、その分、ラーシェルは今まで以上に子供達を可愛がった。

ルシアンが搭に上がって半年程経った頃から、空に小さな変化が現れた。
だんだん下に向かって垂れ下がって来ていた曇り空が、少しずつ色を変えていった。
それに伴い、少しずつ…ほんの少しずつ、垂れ下がった部分が浅くなり始めたのだ。



(この分なら、思ったよりも早く戻って来られるかもしれない…)

ラーシェルは空を見上げ、そんな期待に胸を膨らませた。



空の変化を考えれば、ターニャがルシアンに授けた案は有効だったと思える。
しかし、そうだとすれば、ルシアンが悪しき者に騙されたということ、天界の者だということも信じなければならなくなる。



(……そんなこと、どちらでも構わない…
天界の者だろうと地上の者だろうと、私がルシアンを愛していることに変わりはないのだから…)



週に一度、食料を運ぶ者の話によると、ルシアンは相変わらず不思議な歌を歌っているようだった。
一年程経ったある時、ラーシェルは食料の中に手紙を紛れこませた。
だが、次の週、その者が食料を持って行くと、扉の前に封を切っていないその手紙が置かれていた。
それでも、ラーシェルは何度か同じ事を繰り返したが、手紙の封は一度も切られることはなかった。
諦めたラーシェルは、ある時、花を託けた。
花言葉にルシアンへの愛を託すしか、ラーシェルには為す術がなかったのだ。







(とても良い香り…)

監獄のような狭い部屋の中で、ルシアンは毎週届けられる花に心癒されていた。
泣き出したくなる気持ちを押さえこみ、戻りたくなる気持ちをぐっとこらえて、ルシアンは出来る限り明るい声を出して歌を歌った。
愛する家族に囲まれ、自分が地上でいかに幸せに暮らしているかという事を詩に乗せて天界の仲間に届くようにと祈りながら、ルシアンは一日も欠かす事なく歌い続けた。
今、空がどんな風になっているのか、部屋の小さな窓からはよく見えない。
空が元に戻れば、変化が訪れる。
毎日眺めていたのでは、なかなか変わらない空の様子に絶望してしまうからあまり見ない方が良いとターニャに言われ、部屋には明り取りのための小さな窓しか設えなかったのだ。