「これはまだほんの一部しか解明されてはおりませんが、この文字は『愛』だとされております。
おそらくルシアン様は、あなたやお子様達のことを愛しているということをお伝えになりたかったのではないかと…」

「そんなこと、わざわざ書かれなくてもわかっている!
しかも、なぜ、そんな大事なことを私に読めない文字で書く?
おかしいじゃないか!
それに、その本が天界の本だなどと決めたのはどこの誰なんだ!
そんなことわからない…勝手なことを言うんじゃない!」

叫ぶようにそう言うと、ラーシェルは書物を引き裂いた。



「ラ、ラーシェル様!
なんということを…!!」

穏やかなウィリアムから口から、めったに聞かれることのない感情的な叫び声が上がり、ラーシェルははっとしたように動きを止めた。



「……すまない…ウィリアム…」

ラーシェルは、今、引き裂いたばかりのページを拾い集め、ウィリアムに手渡した。



「本当にひどいことをしてしまった…すまない…」

「……大丈夫です。この程度ならなんとかなります。」

ウィリアムは、優しい眼差しでラーシェルをみつめて頷いた。



「ウィリアム…この文字が何と書いてあるのか、どうにか調べて欲しい。」

「わかっております。
明日、早速、知り合いの言語学者の元を訪ねます。」

「本当か!」

「はい、少し遠いのですぐにというわけにはいきませんが、必ず、解読してみせます。
ラーシェル様、今一度、お手紙を見せていただけますかな?」

ウィリアムは、ルシアンの文字を丁寧に書き写した。



「頼んだぞ、ウィリアム…」

ラーシェルは、老学者の手をしっかりと握り締めた。