「ウィリアム!
どこだ?どこにいる?」

乱暴に扉を開け放ち、息を切らせたラーシェルが部屋の中に飛び込んだ。



「これは、これは、ラーシェル様。
いかがなされたのです?」

「ウィリアム…
この文字が読めるか?」

ラーシェルは、ルシアンからの手紙を差し出し、最後の文字を指差した。
そうは言われても、自然とその前に書いてあることも目に入る。
ウィリアムは、そこに書かれたことを信じられない想いでじっとみつめた。



「どうなんだ?読めないのか?」

「は…はい…はっきりとはわかりませんが…一部だけはわかります。
おそらく、これは『愛』…
そんなことよりも、ラーシェル様、ここに書いてあることは本当のことなのですか?
ルシアン様が天界の者だなんて…」

「……ウィリアム…
そなたはどう思う?」

「わ…私でございますか?」

ウィリアムは一瞬戸惑ったような顔をして俯いたが、やがてその顔を上げ、ゆっくりと頷いた。



「私は…本当ではないかと思います。
ルシアン様が話されていた言葉は、その発声からしても明らかに地上のものとは違うものでした。
それに…ルシアン様はしきりに背中を気にしておいででした。
背中のひどい傷…あれは翼のもぎ取られた跡ではないのでしょうか?」

「……馬鹿な!」

ラーシェルは、テーブルを拳で強く打ち叩く。
ウィリアムは、そんなラーシェルを憐れみのこもった眼差しでみつめると、そのまま隣の部屋に向かった。



「ラーシェル様。」

戻って来たウィリアムの手には、古びた一冊の書物が大事そうに抱き締められていた。
ウィリアムはテーブルの上にその書物を広げ、ゆっくりとページをめくる…



「ラーシェル様、ここをご覧下さい。」

ウィリアムが指差した先には、ルシアンの手紙に書かれた文字と同じものがあった。