「彼女の決意はそこまで固いのか…
ハリス、彼女は他にどんなものを持ちこんだ?
なにか変わったものはあったのか?」

「いえ…着替えや下着や僅かな食器と…
そういえば、オルゴールをお持ちでした。」

「オルゴール…?
……もしかしたら、それは花の模様の彫られたオルゴールか?」

「はい、さようでございます。」

ラーシェルはそのオルゴールに記憶があった。

(私が旅先で買い求めたものだ…)



それはまだ二人が結婚する前のこと…
美しい細工が目に留まり、ルシアンのために買ったのだが、その曲はどこか物悲しく、ラーシェルはそれを確認せずに買ったことを後悔した。
だが、ルシアンは、ラーシェルからの初めての贈り物であるそのオルゴールをとても喜び、そんなことは気にしないと笑ってみせた。
ラーシェルの脳裏に、その時のルシアンのはにかんだような笑顔が浮かぶ…



「ルシアン…」

ラーシェルは、こみあげる涙をぐっと堪え、ハリスの方に顔を向けた。



「ハリス…それで、ルシアンはどうしている?」

「室内の準備と閂が整いましてからは、一人でお部屋にいらっしゃるようです。
私がこの手紙を預かり、降りて来る時、お部屋の中からとても楽しそうな歌声が聞こえてまいりました。
ただ、その歌詞は不思議な言葉で…
今まで聞いたことがないばかりではなく、まるで音のような言葉でございました。」

「音のような言葉…」



(まさか…)



ふと、脳裏に浮かんだ考えをかき消すようにラーシェルは頭を振った。
そして、ルシアンからの手紙をもう一度開く。

ラーシェルは一番最後に書かれた記号のような文字に目を落とし、おもむろに部屋を飛び出した。