それから、約一週間後、ルシアンに仕えていた使用人のハリスが彼女からの手紙をラーシェル手渡した。



ひさしぶりに見るルシアンの美しい文字…
それを見てなごんだのも束の間、そこに書かれていた内容に、ラーシェルの指は震えた。



「な、なんてことを…!」

そこには、ルシアンの揺るぎ無い決心が書き連ねてあった。
天界の綻びを大きくしてしまったのは、自分が悪しき者に騙されてしまったからだということ。
そのため、ルシアンは自分の命を賭けて、それを修復するつもりだということを。

ターニャに教わった方法はとても単純なものだった。
悪しき者の発するルシアンの声色よりもずっと高い場所で、天界の仲間に自分の無事を知らせる事。
歌に乗せ、ルシアンがいかに幸せであることかを天の仲間に聞かせる事。
ただし、それは家族とも離れ、ただ一人で行わなければならない。
自分の感情のすべてを天界の仲間に注ぐことが重要なのだとターニャは言った。

そのため、搭には週に一度食料を運ぶ者がだけが立ち入ることを許され、ラーシェルや子供達には絶対に来ないようにと書いてあった。
念の入ったことに、万が一、ラーシェルや子供達が立ち入った場合には毒を飲むと記されていた。



「ハリス、ルシアンは本当に毒薬などを持ちこんでいるのか?」

「はい、ラーシェル様。
ルシアン様は毒薬らしき紫色の小瓶を、胸にぶら下げておいでです。」

「な、なんてことを…!」

「それに…部屋の前に閂をかけよと命じられまして…」

「閂を?なぜだ?
鍵は内側からかけられるようにということではなかったのか?」

「はい、私も不審に感じお尋ねした所、ルシアン様は『私の決意が揺らいだ時のために』
…そうおっしゃってました。」

ラーシェルは、手に持った手紙を握り締めた。