「ルシアン…何を言ってるんだ?
昨日から様子がおかしいと思ってたけど、一体どうしたって言うんだ?」

「あなたが信じてくれないのも無理はないわ…
でも、本当のことなの…
私はこの世界の者じゃない…あの空の上に住まう者なの…」



ルシアンは、ターニャから天界を救う方法を教わった。
それは、ルシアンにとってこれ以上ない程、過酷なことだった。
そのことを考えてルシアンは一晩中泣き明かし、そして、次の日、ルシアンはラーシェルに自分の決意を伝えた。
それと同時に、今まで一度も口にしなかった…一生、言うつもりのなかった自分の正体についてもルシアンは包み隠さず話して聞かせた。



「ルシアン、君は疲れてるんだ。
ターニャ様に何を言われたのかは知らないが、君がそんなに気に病むことはない。
そのうち、我が国の学者達がきっとなんとかしてくれるさ。」

ラーシェルは、ルシアンの肩を優しく抱き締める。
だが、ルシアンは、俯いたまま首を振った。



「お願い…私の言う通りにして!
そうでないと…天が…天界の仲間達が…!」

「大丈夫だって。
天は落ちてなんか来ないさ。」

ラーシェルの慰めの言葉にルシアンは耳を貸さず、ただ同じ言葉を繰り返すばかりだった。
ついに根負けしたラーシェルは、ルシアンの願いを聞き入れることにした。



「わかったよ、ルシアン…
それで、どうすれば良いんだい?
どうすれば、天は落ちて来なくなるんだい?」

「ありがとう、ラーシェル…!
とにかく一刻も早く搭を立ててほしいの…
空に届く程、高い搭を…!」

ルシアンのその真剣な眼差しに、ラーシェルは深く頷いた。
ルシアンが何を考えているのかも知らないままに、ラーシェルは彼女の言う通り、高い搭を立てることを約束した。

次の日からすぐに搭の建設が実行に移された。
国で一番の建築家が呼び出され、いまだかつて作られたことのないような高い搭の建設を命じられた。
ルシアンの希望はただただ高いということ。
最上部は人間が一人住む最低限の広さで良いとの要望から、ラーシェルはその場所でルシアンが祈りを捧げるつもりなのではないかと考えた。



(それで気が済むのなら、彼女のしたいようにさせてやろう…)



設計図が描き上がるとすぐに、搭の建設が始まった。