それからの数年間は、瞬く間に過ぎ去って行った。
ルーシェルとルシアンの間には、天使のごとく可愛らしい男の子と女の子が生まれていた。
時には空を見上げ、切ない瞳でそれをみつめることはあったが、ルシアンは天界へ戻ることはすでに諦めていた。
空を見上げるのはただの郷愁…戻りたいという意思ではない。
なぜならば、彼女が天界に戻るということは、家族であるルーシェルや子供達と離れると言う事なのだから…
彼女に、そんなことは考えられなかった。
だからこそ、彼女は今後もずっと地上で生活することを決意していた。
愛する家族達に囲まれながら…







「ジュネ、ラーク、あんまり遠くに行っちゃだめよ!」

「はぁ~い!」

ある時、一家は国のはずれにある別荘に出掛けた。
森の中にある別荘は、自然に囲まれ静かでとても居心地が良い。
あたりには住む者も少なく、人々の目に晒されることもない。
ルシアンとその家族は束の間の休息を楽しんでいた。







「マリー、子供達はまだ戻って来ないの?」

「申し訳ありません。
私がほんの少し目を話した隙にどこかに行ってしまわれて…」

「あなたのせいじゃないわ。
では、私はあっちを探して来ます。あなたはそちら側をお願い。」

「かしこまりました。ルシアン様。」



(どこに行ったのかしら…?)



ルシアンは、交互に二人の名を呼びながら森の中を歩いていた。
二人の子供達は、母親の血を受け継いだのか、とても活発で好奇心の強い子供達だった。
大人達の目を掠めては、すぐに二人で消えてしまう…そして、泥だらけになったり、膝小僧に傷を作ってはひょっこりと戻って来る。
しかし、ここへ来るのは子供達も初めてだ。
このあたりには、泉もある。
何事もないとは思いつつも、一抹の不安を胸に抱きながらルシアンは子供達を探し続けた。



「おやまぁ…珍しい者だこと…」

「誰?」

不意に耳に届いたしゃがれた声に、ルシアンは後ろを振り返る…
そこに立っていたのは、黒いローブを身にまとった小柄な老婆だった。



「あんた…この世界の者じゃないね…?」

「な…何を、馬鹿なこと…!」

動揺するルシアンを嘲笑うかのように、老婆は不気味な笑い声をあげた。