「ルシアン、だめだよ。
そんなに走っちゃ!」

息を切らしたラーシェルが、ルシアンに声をかけた。



「ラーシェルは本当に心配症ね!
私はもうこんなに元気なのよ!
あなたなんかに捕まらないわ!」

ルシアンは振り返って立ち止まり、笑いながらそう言うと、金色の長い髪を風になびかせながら走り去った。
城内の広い庭を走るルシアンをラーシェルはさらに追いかける。



「本当に君はお転婆なお姫様だな!
ようし!」

ラーシェルは、足に力をこめ地面を蹴るとルシアンに長い腕を差し伸ばした。



「あ…!」

折り重なるようにして、二人の身体が芝の上に倒れ込んだ。



「ほうら、捕まえた!」

「……もぅっ!ラーシェルったら…危ないじゃないの!」

「このくらい大丈夫さ!
僕の奥さんはとっても元気だからね。」

そう言いながら、ラーシェルはルシアンにそっと接吻けた。



「ルシアン…僕は本当に幸せだよ…」

「ラーシェル…私もよ…」






あの日から、二年近い歳月が流れていた。
ラーシェルは、頻繁にルシアンの部屋を訪ねるようになり、ルシアンも次第に彼に心を開いていった。
体調が良くなって来ると、ルシアンはウィリアムを介して言葉を習い始めた。
それもすべてはラーシェルと話したいという想いからだった。
ラーシェルもその想いは同じだったため、積極的に学習の手伝いをした。
ルシアンが言葉を覚えていく度に、二人の愛は育まれていく…

ラーシェルはルシアンを愛していることを…自分の妃に迎えたいと考えていることを国王に話した。
どこの何者とも知れぬルシアンとの結婚を、国王は当然快くは思わなかったが、ラーシェルの決意は固く、それから半年後、ようやく国王は二人の仲を許した。

国を挙げての盛大な結婚式が執り行われ、ルシアンはソリヤ王国の王女となった…