(ここは…?)



ルシアンはゆっくりと目を開けた。
その目に映った数人の顔には見覚えがあった。



(夢じゃなかったんだ……)

ルシアンの大きな瞳から、熱いものが溢れ出した。



(私は…地上に落ちたのね…禁忌を破った罰だわ。
あんなことをしなければ…あ……)



ルシアンの口がぱくぱくと動く。
何か言いたいことでもあるように…
だが、そこから声は発せられなかった。



「どうかされましたかな?」

その言葉の意味はわからなかったが、ウィリアムが心配してるのだということはルシアンにもわかった。



「私の翼が…翼が…!!」

ルシアンは動かない腕を必死に動かしながら、ウィリアムにそのことをジェスチャーで伝えようとした。
しかし、ウィリアムも周りの者達もただ不思議そうにルシアンをみつめるばかり…



「背中が痛むと言ってるのではないでしょうか?」

「背中…背中…は…」

ウィリアムにはその言葉が思い浮かばないらしく、ウィリアムがルシアンに向かって背を向け、側近の者がその背中を指差した。



「そう!そうよ!私の翼はどうなったの?!」



「やっぱり、背中がどうかあるようだ。
ウィリアム、『あなたは背中にひどい怪我をしていた』と伝えられないか?」

「怪我…そう、血という言葉ならわかります!」

ウィリアムは、ルシアンの方へ向き直ると、今度は側近に後ろを向かせ、その背中を指差しながら「血」「血」と何度も繰り返した。



「血…?まさか……!」

ルシアンは、ウィリアムの言おうとすることを推測した。



「鏡を…!鏡を見せて!!」

泣き叫ぶようにそう言いながら、ルシアンは壁にかけられた鏡を必死に指差す。



「鏡を見たいと言ってるのではないでしょうか?」

「女性だから、傷の具合が気になるのでしょうか?」

「今はまだ無理だな。
あんな酷い傷を見せたらなおさらショックが大きいだろう…」

側近は、ルシアンに向かって苦々しい顔で首を振る。



「どうして?!
どうして見せてくれないの!
鏡を見せて!鏡を!!」

騒ぐルシアンは医師達に取り押さえられ、また先日の苦い薬を飲まされ、やがて彼女は眠りに落ちていった。