「地上…」

ウィリアムの口にした言葉を、力のない声でルシアンは繰り返す…



「地上」等と曖昧な事を言ってしまったことを後悔し、ウィリアムはもう少し良い表現はないものかと考えていた。
この少女が口にした言葉は、古代の書物に記されていたものと似ていることにウィリアムは気付いていた。
人間が、天上の神と話した時に使ったとされる神の言葉だ。
しかし、その言語は資料がごく少なく、ウィリアムが知る言葉も少なかったのだ。



(そうだ!)

「東、国、ソリヤ」

ウィリアムは、考えた末に、ここが東の大陸に位置する「ソリヤ」という国であることを伝えようとした。
しかし、その言葉はルシアンの耳には届いてはいないようだった。



「地上……」

ルシアンは口の中で、呪文のように何度もその言葉を繰りかえし、その瞳からは涙が滴り落ちる…



「いやーーーーーーっっ!!」

ルシアンは突然、大声をあげて泣き叫び、動かない身体を起こそうともがき始めた。
周りの医師達が、あわててルシアンを押さえ、何か苦味のある液体をルシアンの口に注ぎ入れた。
ルシアンは、咳き込みながらもそれを嚥下し、やがて、深い眠りに落ちていった…




(う…そ……
これは…ゆめ………)