「い…痛い…
メリッサ…翼が…」

ルシアンの顔が苦痛に歪み、メリッサの腕を掴む力が緩む…



「あ……」

薄紅色の正体は、ルシアンの翼の根元から流れ出す血だった。
その色は、少しずつ濃い赤に変わっていく…



「ルシアン、頑張って!
手を離したらおしまいよ!
頑張るのよ!!」

メリッサは、必死に翼を羽ばたかせ、ルシアンをひきあげようと頑張るが、その度にルシアンの口からは苦しげな悲鳴があがる。
下からひっぱろうとする力に抗う度に、翼の根元がルシアンの身体からはがれかかり大量の血が流れ出す…



(どうしよう…あんなに血が…
でも、ここで手を離したらルシアンは…)



メリッサは、ルシアンの悲鳴を聞きながら熱い涙を流していた。
手を離すべきか、それともひっぱり続けるべきなのか…
その辛い選択にメリッサが心を痛めていた時…一際大きなルシアンの悲鳴が耳をつんざいた。



「あぁぁ……」

そこで、メリッサが目にしたものは、ルシアンの身体からもぎ取られ赤く染まった翼が砂の中に沈んで行く様だった…



「あ……!!」

ルシアンは気を失ったのか、彼女の手から突然力が抜け、その瞬間、メリッサも反射的にその手を離してしまったのだ。



「ルシアン!!」

ルシアンの身体は、翼の後を追うように、白い砂の中に沈んで行った。
それはほんの一瞬の出来事だった…