割れたガラスに触れないよう気を付けながら、二人は城の内部へ侵入した。
降り立った途端に床が軋み、かび臭いにおいが鼻をかすめる。



「気を付けろよ。
ずいぶん傷んでる。」

二人は薄暗い廊下を慎重に歩いて行く。



「この建物は思ったより古そうだね。」

「そうだな。
外から見るより、ずっと傷んでる感じだな。」

搭へ続く階段へは鍵のかかった扉で閉ざされていたが、セスの一蹴りで扉は鍵ごと外れた。



「はぁぁ…こりゃあすごい!」

下から見上げると、その長い螺旋階段は果てしなく、本当に天界まで続いているのではないかと思えた。



「長いからゆっくり行こうな。」

セスの言葉に、フォルテュナは黙って頷いた。



二人は石造りの階段を上がって行く。
一歩、一歩、確かめるようにゆっくりと…



「こんなんじゃ、下に忘れ物してもなかなか取りに帰れないな。」

セスの冗談にフォルテュナは黙って微笑む。
息があがって、話すのが苦しかったからだ。
上に上がるにつれ、二人の間の会話はさらに少なくなっていった。
その後は、二人の重い靴音と、苦しげな息遣いが聞こえるのみ…



「フォル…テュナ…少し…休もう……」

その声に黙って頷き、二人は階段に腰を降ろした。
息を整え、噴き出す汗を拭い、水筒の水を口に含む。
今拭ったばかりの二人の顔に再び玉の汗が滲み出す。



「なんて搭なんだ…見ろよ、フォルテュナ。
てっぺんまではまだあんなにあるぜ。」

「思ったよりもずっと高いんだね。
……どうする?引き返す?」

「引き返す?ここまで来てか?」

「……そうだよね。
ここはあの洞窟よりはマシだもん。
きっと上れるよね。」

「上れるさ。
二人だからな!」

そういうセスにフォルテュナは笑顔で頷いた。



「じゃあ、行こうか!」

二人は立ち上った。
上を見ず、足元の一段だけをみつめながら着実に…
疲れては休み、励ましあいながら上り続けた。




やがて、搭の側面の小窓から差しこむ光が赤く染まった頃…
二人は、ようやく扉の前に辿りついた。



「ついに頂上に着いたのか?!」

扉の小さなのぞき窓からは部屋の中の様子はよく見えない。
セスが扉の前にはめられた大きな閂をはずした。