セスの言った通り、その文字はフォルテュナにも読む事は出来なかった。
文字というよりも、フォルテュナにはただの模様のように見えた。



「ねぇ、君はあそこになんて書いてるんだと思う?」

「そうだなぁ…
この国の人達は、元は天上界から来たって話だから…きっと、良い人達で…
だったら、やっぱり『皆が幸せでありますように…』とか…
そんな所じゃないか?」

「なるほど…君らしい答えだね。」



(僕は、「空に帰りたい」と書いたのかと思ったのにね…
また、君に負けた気がするよ。)



「俺らしい答え?
じゃあ、あんたはなんて書いてあると思ったんだ?」

「ぼ、僕は……えっと…
まぁ、国の名前か何かかと…」

「それにしちゃ長いじゃないか。」

「でも、そういうものかもしれないよ。
天界の文字も1つで1文字とは限らないじゃない。」

「あぁ、そうか。
3つ4つ合わせて1文字ってこともあるかもしれないってことだな。
言われてみたら、そうかもしれないな。」

フォルテュナは、本心を偽ってしまったことが少し後ろめたく、セスの視線を避けた。



「あ……
あれは?」

流されたフォルテュナの視線は、高い高い城壁の少し先に、尖った何かを見つけた。




「あぁ、あれは天上の搭って呼ばれてるんだ。」

「天上の搭…すごい高さだね。」

「……のぼってみるか?」

「えっ?あそこに上れるのかい?」

セスはゆっくりと頷いた。



「一応、危険だから立ち入り禁止ってことにはなってるけど、誰かが見張ってるわけでもないし、上りたけりゃ上れるさ。
実をいうと、俺も前から興味はあったんだ。
でも、一人じゃなんとなく行きにくくてな。
じゃあ、行ってみるか?」

セスの言葉はあの高い搭へ上ることに何の危険も感じていないような、とても軽いものだった。




「……そうだね。」

フォルテュナはそう答えたものの、心の中にそれなりの躊躇いはあった。
立ち入り禁止にされているということは、建物の老朽化のために崩れる危険があるからなのではないかと思われたからだ。
それでも、その心配以上にあの高い搭からの眺めが気になる自分がいた。



(ここに来てから、僕は少し性格が変わったのかもしれないな…
それともセスのせい…?)



込み上げる笑いを押し殺して、フォルテュナはセスの後に続いた。