花畑を過ぎると、そこに広がっていたのは草原と森の続く道程だった。



「町まではけっこうあるんだね。」

「そうさ。
でも、俺達がいるのは暗くて狭い穴の中じゃないんだ。
それだけでも快適だと思わないか?」

「君の言う通りだね。」

野宿なんてなんでもない。
空は暗くても、星が月が…



(あ……)



フォルテュナは、今更にして気が付いた。
黄昏の町を…そしてあの長いトンネルを抜けた途端に、太陽や月の存在する世界にいることを…



(じゃあ、もしかしたら、ここは僕がいた世界なのか?)



そんな考えがちらりとフォルテュナの頭をよぎったが、すぐにそれは違うと思い直した。
根拠はないが、元の世界に戻れば精霊としての力がよみがえると彼は考えていたからだ。



(今の僕は普通の人間と違わないもの…この耳をのぞいてはね…)



「なんだ、思い出し笑いか?」

「いや……
今の環境は、本当に幸せだなと思ってね。」

フォルテュナは、笑いの原因を偽った。
だが、その言葉は偽りではなかった。

今は暗くとも、しばらくすれば、すぐに明るい太陽が昇るとわかっていることが、どれほど幸せで心強いことか…
手足を自由に伸ばし、風を感じる事が出来ることがどれほど安堵出来ることか…

フォルテュナがこんな感情を知ったのは、あのトンネルのおかげだ。



闇を知らねば、光のありがた味に気付かない…

(辛い法則だよね…)

世の中のすべての事柄は、すべてその法則に則って動いているというのに、それに気付かない人間は多い。
しかし、それを気付かないでいられるということは、ある意味、幸せでもあるということ。



「どうしたんだ?今度は難しい顔して…」

「なんでもないよ…」

「そうか…じゃ、そろそろ寝るか…
町もそう遠くはないぜ。
あと一息だ!」







「なんだい、これは?」

フォルテュナが、不意に立ち止まり、セスに尋ねた。



次の日の昼過ぎに二人が通りがかったその場所には、天にも届きそうな高い城壁がそびえたっていた。



「あぁ、これか…
これは大昔に滅びた王家の城跡だ。」

「滅びた?」

「なんでも、天上界の者が作った国がこのあたりにあったとかなんとかいう伝説があって…
ほら、あの文字…読めるか?」

セスは城壁の中央に刻まれた奇妙な文字を指差した。



「な、あれは天上界の文字だから、この世界の者には読めないんだってさ。」