(ど…どうなったんだ…?!)

フォルテュナが目を覚ました時、あたりは漆黒の闇に包まれていた。
自分の目が見えなくなったのかと、フォルテュナは、一瞬、激しい不安にかられたが、しばらくしてランプの灯かりが消えていることに気がついた。
手探りでランプを探し当てる。
油がなくては使えない代物だが、かといってこのままここに置いていくのもはばかられるため、袋の中に押し込んだ。
フォルテュナは、昨夜灯かりを消さずに眠り込んでしまったことを…そして、予備の油を持って来なかったことを後悔しながらゆっくりと立ち上がった。
あまりの闇の深さに、眩暈を感じ身体のバランスが崩れ、咄嗟に壁に手をかける。



(確か、こっちだったはずだ…)

フォルテュナは、細心の注意を払いながらゆっくりと歩き出した。
念のため、片手を壁に付けたまま移動する…
いくら目を凝らしても、小さな灯かり一つ見えない暗闇…

フォルテュナは、初めて闇を怖ろしいと感じた。
どこまで行っても真っ暗な狭い道を進んでいるうちに、ここがどこかもわからなくなってくる…
目を開けているのか閉じているのかさえよくわからない…
次第に、自分自身もこの闇に飲みこまれ、真っ黒に染まり溶けて闇の一部となってしまうような得体の知れない恐怖にじわじわと包み込まれていく…



どのくらい歩いたのだろう…
身体の疲れ具合から相当歩いたことだけはわかる。
だが、あたりの状況は何も変わらない。

もしかしたら、ここは元の場所なのかもしれない。
まっすぐだと思っているのは実は錯覚で、緩やかな円を回っているだけなのかもしれない…
フォルテュナはそんな思いに囚われた。
もしそうならひき返せばすぐに元の位置に戻るのではないか。
そして、アンリの元に戻ってもっとちゃんと準備をしてからここへ戻った方が良いのではないか。

そう思う気持ちと同時に別の考えが頭をもたげた。
やはり、ここが、黄昏の町のあの入り口から遥かに離れた場所だったら…
あの場所までこの暗闇の中をひき返すことが出来るだろうか?
それ程の精神力が自分にあるだろうか?

フォルテュナの足がぴたりと停まった。
進む事も引き返す事も出来ず、その場に根が生えてしまったように動けない…

いつしか、フォルテュナの頬を熱いものが流れ落ちていた。



(助けて…
誰か…僕を助けて…)