拍子抜けするほどあっさりと、フォルテュナはアンリの家を離れた。
まるで、また明日顔を合わせる友人達のように…



「じゃあ、気を付けてね!」

微笑みながら手を振るアンリに、フォルテュナも手を振る。
アンリに教えられた通りに、フォルテュナは町のはずれを目指した。
時の経過を感じるものは、足の痛みと空腹だけ。
空の色はどこまで行っても変わらない…
アンリの言葉を少し疑いたくなる気分になった頃、フォルテュナの瞳に大きな山が飛びこんで来た。
何かはわからないが、心に感じるものがあった。
フォルテュナの足は、自然にその速度を速める。

行く手を阻むかのような切り立った山の中央には、大人が一人どうにか立って歩ける程度の穴が開いていた。



(もしかしたら、ここが…)



フォルテュナの本能的な感覚が、ここが黄昏の町の縁だと感じさせていた。
そうは思いながらも、真っ暗で小さな穴に入ることがフォルテュナにはどこか躊躇われた。

人は闇というものに得体の知れぬ恐怖を感じる…
しかし、フォルテュナにはそんな恐怖は存在しなかった。
その姿はほぼ人間のようでいても人間とは非なる者のためか、闇に対する恐怖など感じたことはなかったはずなのに、なぜ、今、自分の足が止まってしまうのか…
そんな疑問を打ち消すようにフォルテュナは頭を数回振ると、ランプの芯に灯かりを点け、小さな穴の中に足を踏み入れた。