店長と井上さんの質問が次々と繰り出されるため、おかみさんの話は終わりそうにない。
恋ちゃんのことを聞きたいが、店じまいまで粘るか……
腰を据えることに決め、酒の追加と料理も頼んだ。
黙々と食べる俺へ、板さんが次々に料理を出してくれる。
この人も、もう何度もおかみさんの身の上話を聞かされたはずで、そらんじるくらいではないだろうか。
そして、板さんにも語りつくせない人生があるはずだ。
「ここ、長いんですか」
「15年になります」
「そんなに長く」
「はい……」
あとが続かない。
無口な人はどこまでも無口で、聞かれたことにしか答えてくれない。
質問をあきらめて、再び食べることに専念した。
「……ということは、ここにいる人、みんな離婚経験者ですね。
あっ、西垣さんは婚約解消でしたね」
いきなり話を振られ、箸で挟んだ揚げ茄子を取りこぼした。
それよりなにより、どうして井上さんが俺の婚約解消を知っているのか、店長にも話したことがないのに。
「えっ、どうして知ってるの?」
「どうしてって、西垣さん、自分で話したじゃないですか」
「いつ」
「みんなで麻生さんの部屋で飲んだ、あのときですよ。
私が、離婚して3年たっても指輪の跡が消えない話をしたら、僕は婚約指輪を渡す相手がいなくなったんだって、話してくれましたけど。
ねぇ、店長」
「うん、彼女の親とはいい関係だったのに、彼女の方が結婚に消極的でまとまらなかったんだよね。違った?」
「違ってないですけど……うわぁ、俺、そんなこと話したんですか。
ぜんぜん覚えてないな、いつ話したんだろう」
「黒糖酒を飲みながら。あれさ、すごく強い酒だけど、口当たりがいいからどんどん飲むでしょう。
酔って口も滑らかになって、麻生さんを相手に熱心に語ってたよ。西垣さんの思い出、いいことも悪いことも聞かせてもらったから」
「俺、恋ちゃんに全部しゃべったんですか……」
恋ちゃんを相手にくどくど話したのだろうか。全部って、まさかファミレスの修羅場もしゃべったのか?
「あのぉ……俺、ファミレスがどうこうって話、してましたか」
「うっ、うん……彼女が若い彼氏と一緒で、言い合いになって別れ話になったとか、ならないとか、そんな話だったような」
林店長は言いにくそうに言葉を濁したが、おそらくもっと詳しいいきさつを知っているに違いない。
なんてことだ、この前ここでおかみさんに聞かれたときも、その部分は省いて話をしたのに、恋ちゃんはとっくに知っていたのか。
恥ずかしくて恥ずかしくて、穴があったら入りたい、それよりここから逃げ出したい。
「ファミレスで修羅場? 西垣さん、やるじゃない。さすが」
「そんなの褒めないでくださいよ」
「さっきから恋ちゃんって言ってますけど、西垣さんと麻生さんって、そうだったんですか?」
井上さんの顔が興味津々、俺へ問いかける。
「そうだったって、どんな?」
「そんなの決まってるじゃないですか。付き合ってるんでしょう? わぁ、知らなかった」
井上さんの決めつけたような言い方に、俺はいささかムッとした。
恋ちゃんの相手は、昨日俺が見たあの男だ、俺なんかじゃない。
よりによって、お姉さんの元ダンナと付き合うなんて、どういうつもりだよ。
昨日から抱えていたモヤモヤが一気に噴き出した。
「そんなんじゃない。彼女には、ほかに付き合ってる人がいるよ。
おかみさんも知ってますよね、昨日の男。信じられないな、不毛な関係じゃないか」
「不毛な関係って?」
俺は頭から湯気が出そうなくらい怒っているのに、おかみさんは首をかたむけている。
「昨日、ここにいたでしょう。あの男、愛華さんの元の旦那さんですよ。
おかみさん、知らなかったんですか」
「知ってるけど、西垣さん、どうして怒ってるの?
えっ、あぁ、そういうことね。あらら、おほほ……なるほどね」
この反応はどういうことだ?
まったくもって理解できない。



