冬夏恋語り



まずは驚いて、驚いたあと困った顔になるのか、ひきつるのか、頭を抱え込んで苦悩するのか、まさかバンザイと両手を挙げて喜ぶことはないと思うけれど、嬉しそうにしてくれたら私は満足だ。

「本当に俺の子どもですか」 なんて言われたらショックだが、どんな反応でもしっかり受け止めるつもりでいる。


紅茶で口を湿らせて、返事だけど、その前に、と言った私へ、彼が手をかざし ”待て” のサインをした。



「俺の話を先に聞いてください」


「えっ、えぇ、いいけど」


「深雪さん、欲しいものってなんですか」


「欲しいもの?」


「そう、深雪さんが欲しいと思うものを教えてください」


「うーん、思いつかない」


「じゃぁ、欲しかった物ってありますか。憧れてたものとか、手に入らなかったものとか」



憧れていたものと言われて、友達の部屋を思い出した。

ずっとずっと憧れていた、いつか夢を叶えたいと思っているが、未だ叶えられずにいる。



「フローリングの部屋とベッドかな。うちが純和風の家だから、ずっと憧れてたの」


「わぁっ、いきなり具体的ですね。うーん、まぁ、なんとかなるかな」


「えっ?」


「なんとかします。これから部屋を探して、クリスマスには間に合わせます」


「欲しいものって、クリスマスプレゼントだったの?」


「それだけじゃなくて、記念のプレゼントをしたくて」



何の記念だろう、私には思いあたらない。

彼の言葉を素直に受け取るなら、クリスマスまでにフローリングの部屋を用意するということだ。

現在彼が住んでいる部屋から引っ越して、フローリングの床にベッドを準備して私を招いてくれるつもりだろうか。

確かに彼の部屋は畳だったけれど、私の希望だからといってそんな無理はさせられない。



「部屋を引っ越すなんて、そんなことしなくていいから。お部屋代、もったいないでしょう」


「深雪さんって堅実ですね。でも、二人で暮らすには今の部屋は狭いでしょう」


「二人って、亮君、誰と暮らすの?」


「はぁ? 深雪さんに決まってるじゃないですか」


「私と? どうして」


「どうしてって、結婚するからに決まってるじゃないですか」



いきなり飛び出した結婚の二文字に目をパチクリさせていると、その返事を持ってきてくれたんでしょう? と、自信ありげだ。



「私が断るとは思わなかったの?」


「断るなら、2ヶ月の期限ギリギリまで待ってから言うでしょう。

良い返事だから早く会ってくれた、そうですよね」


「そうだけど、そうじゃないというか……」


「じゃぁ、子どもができたとか」


「うん……えっ、ええっ?」



紅茶を運んできた若い男性の店員さんにも亮君の言葉が聞こえたのだろう、目を丸くして驚いているのに、当の本人はいたって落ち着いている。

亮君のうろたえる姿を想像していたのに、私のほうがたじろいだ。



「1ヶ月で連絡があったから、そうじゃないかと思ってました」


「亮君?」


「なんですか」


「聞かないの?」


「なにを」


「それは本当かって」


「深雪さんがウソをつくはずないでしょう。

もっとも、俺はそうなってもいいと思ってたし、そうなったら責任を取る気満々だったので」



避妊しなかったのだとさらっと言われ、ストレートな告白にドギマギした。

確信犯だったの? と聞くと、そうなりますね、と紅茶を飲みながら涼しい顔で言われてしまった。



「それでね。どうする? 結婚しなくてもいいのよ、私、ひとりで育てる覚悟はあるから」


「結婚するに決まってるでしょう! 俺がプロポーズしたの忘れたんですか!」



店内中に響く大きな声で思いっきり怒られた。

覚えてます、と小さな声で答えて身を縮ませると、怒鳴ってすみませんと謝られた。



「一応、返事を確認させてください」


「はい、よろしくお願いします」


「こちらこそ……それで、病院に行ったんですか」


「まだ、検査薬だけ」


「明日病院に行って確かめて、それから深雪さんの家に行く、それでいい?」


「はい、いいです」


「深雪さん、体辛くない?」


「大丈夫です」



このとき、年下の彼がとても頼もしく見えた。

いつの間にか、彼の言葉は敬語ではなくなり、反対に私は丁寧に返していた。


紅茶の香りが漂ってきた。

マイセンの器に盛られたケーキと紅茶が、優雅な手つきでテーブルに置かれた。



「店長から、おふたりへお祝いです」



感激して涙ぐむ私へ、おめでとうございますと声をかけ、ごゆっくりと亮君に伝えると彼は静かに立ち去った。


それから閉店まで、現実的になった未来について語り合った。

その夜は、私たちの特別な日になり 『茶蘭』 の出来事は、忘れられない大事な思い出となっていつまでも記憶に残った。