冬夏恋語り



大通りに店を構えるコンビニは、通りに並ぶ店舗の中でもひときわ明るく目立っていた。

店内を見通せるガラス張りの造りは人の視線を引きつけるのか、明かりに吸い寄せられるように次々に人が入っていく。

ファミレスやコンビニの立地条件に適しているのは、市街地から住宅地に向かう交差点の角地であると、先日、「お孫さんから預かったおつり」 を届けてくれた北条さんの話だった。

自宅へ帰る道を走り信号で止まったとき、目の前にコンビニが見えると寄って行こうという気になるそうで、北条さんが所有する土地に、条件を満たす場所があるのだと言っていた。

そういえば、あのファミレスも交差点の角だった、だから繁盛していたのか……

修羅場を披露したため、しばらくは足を向けられないファミレスを思い出し、苦笑いに口が歪んだ。


コンビニに目を向けると、カップを手にした東川さんが出てくるところだった。

相次いで始まったコンビニのカフェメニューは手軽で美味しく、店の前にはためく 『淹れたて、深入り』 と書かれたのぼりに引かれて、私たちもここに寄った。



「はい、カフェラテ」


「ありがとう」



ひとしきり泣いたあと涙が収まってくると、ふと我に返り恥ずかしさに見舞われた。

泣き止むまで寄り添ってくれた東川さんに、ありがとうと礼を伝えたいのに、出てきた言葉は

「ごめんなさい」 だった。

落ち着きましたかと聞かれうなずくと 「コーヒーでも飲みませんか」 と誘われた。

『タケシさん』 にも同じ言葉で誘われて危険な目にあった。

男性に対して人一倍警戒心が強いのに、『タケシ』 という名前に惑わされたのか、先ほどの私には危機感が欠けていた。

東川さんに助けられ、怒鳴られて、ようやく自分が招いた危うさに気がついたのだった。

駐車場のガードに腰かけて、淹れたての一杯をご馳走になった。



「結婚、やっぱりやめたんですね」


「東川さんとカラオケに行ったでしょう。

あのときは、落ち着いて考えてから答えを出そうと思ってたの。

でも、家に帰ったら玄関前に彼と父が待ってて……」


「先回りされたのか……彼も、なんとかしようと思ったんでしょうね」


「落ち着いてもう一度考えようと思っていたのに、我慢できなくなって」


「それで、結婚をやめたんですか?」



いいえ……と首を振り、ブロック会議に出かけた先で西垣さんに会った話をした。

彼の友人も巻き込んで話し合ったが、壊れた関係が戻ることはなかったと告げると、東川さんは 「そっか」 とため息混じりに漏らした。



「言ってみれば私のわがままで結婚話がなくなったのに、父は私に何も言わないの。

なにか言いたそうなのに黙ってるから、私のほうが滅入ってしまいそう」


「小野寺社長がですか? 

よっぽど我慢してるんでしょうけど、どうしてやめたんだって、怒られたほうが気が楽ですね。

黙ってられるのはきついですね」



東川さんがいうように、私にとって今は、辛くきつい状態だ。

父の我慢がいつまで続くのか、いつ爆発するのか、それが怖くもある。



「けど、あんな男についていくなんて、どうかしてますよ。

色白でぽっちゃりした顔が好みのタイプだって言ってましたよ。

アイツ、最初っから深雪さん狙いでしたね」


「えぇっ、どこで聞いたの?」


「店のトイレです。トイレで噂話をするのは女の子だけじゃないです。

色白の子、小野寺深雪っていったっけ、って話すのが聞こえてきたので、注意して話を聞いてました」



小野寺深雪という同姓同名の人がたくさんいるとは思えない、私のことに違いないと思ったそうだ。



「東川さんはどうしてあの店にいたの? 転勤になったはずじゃ」


「営業所は代わっても通勤できるので、朝が少し早くなったけど通ってます。

さっきの店にいたのは……たまたま、彼女に呼ばれて行っただけで」


「彼女さんって、ファミレスで会った彼女?」


「俺は別れたつもりだったのに、彼女の方はなかなか諦めてくれなくて、

もう一度、もう一度って、何度も呼び出されて、今日こそは決着をつけようと思って店に行ったら、深雪さんたちの隣の部屋だったんです。

自己紹介も全部聞こえてました」


「私も、となりから亮君って聞こえてきて、東川さんかな? と思ったのよ。

あの声は彼女だったのね……あれ? 彼女は? まさか、おいてきたとか」


「男が深雪さんを連れ出す気配がしたから、そのまま出てきました」


「わぁ……彼女、探してるわね……里緒菜さんだったわね。ごめんなさい」


「いいんです。これで諦めたでしょう」


「でも、私のせいでしょう? 駐車場のこととか、ファミレスのときもそうだし」



私と関わったばかりに、東川さんは彼女と別れることになってしまった。

彼女はヨリを戻したかった、だから、何度も東川さんに会って話をして、気持ちを伝えようとしていたはずなのに、またも私がふたりの邪魔をしたということ。

申し訳ない思いがした。