冬夏恋語り



夏の終わりの夕方は、思いのほか早く日が暮れる。

あれからすぐ東川さんに電話をしたが、何度かけてもコールセンターにつながり、『留守番電話サービス』 のアナウンスが流れてきた。

相手のいない電話に話すことが苦手な私は、東川さんに用件の伝言ができず、三度目の挑戦で

『小野寺です。電話をください』  とメッセージを残したのだった。

たったそれだけのことでエネルギーを使い果たし、外灯がともった家にたどり着く頃には、疲れが増していた。


玄関の引き戸を開けて、「ただいま」 と告げると 「おかえりなさい」 ではなく 「遅かったわね」 と母の心配した声に迎えられた。

なにかあったのかと心配したのよ……と言われるのではと思ったが、そうではなかった。

 

「ちいちゃんから生酒をもらったそうね。お父さん、お待ちかねよ」



ちいちゃんから葡萄のお礼の電話があり、頂き物ですがお酒をどうぞと母に伝えたそうだ。



「そのお酒だけど……」



人にぶつかって割れて買い直したの、と言うつもりでいたのに、玄関の見慣れない靴に目が留まってそちらへ関心が移った。

紳士物の革靴と、品の良いパンプスの持ち主の組み合わせに、心あたりがなかった。



「お父さんにお客さま?」


「西垣さんと、西垣さんのお兄さんのお嫁さんがいらしたの」


「えっ?」


「深雪が出掛けてすぐだったわね、日程について相談があるのですがと西垣さんから

電話をいただいて、お父さんに相談したら、こちらに来ていただくことになったの。

あなた、聞いてないの?」


「うん……」


「とにかく、あなたもお部屋にいきなさい」


「わかった」



急にどうしたのだろう。

日程って、両家の顔合わせ?

その相談に、お兄さんのお嫁さんが一緒?

西垣さんから私に連絡がなかったのはなぜ?

日程がどうのと母が言っていたが、私に相談もなく両家の顔合わせが決まっいるのではないかと思うと、面白くない気分だった。



「そうだ、昆布、買ってきてくれた?」


「あっ、忘れた。ごめんなさい」


「忘れたものは仕方ないわね」



東川さんに会って、また助けてもらったのだと言いたいが、長話になりそうで、ごめんなさい、とだけ告げ、客間に急いだ。




父の機嫌の良い声が廊下まで響いている。

「その日にしましょう」 と聞こえてきて、私ぬきで話がまとまったのかと残念な気分になった。

それでも、気を取り直して襖を開けて 「失礼します」 と挨拶をして部屋に入った。


父から 「ようやく帰ってきたか。ここに座りなさい」 と席を示され、そこへ座った。

西垣さんが私の顔を見て微笑み、私も微笑を返した。

彼の横に座っている女性が座布団をおりて 「お邪魔しています。武士の義姉です。

よろしくお願いいたします」 と場慣れた挨拶があったが、 私は 「はじめまして。深雪です」 と言うのがやっとだった。

スーツが似合うお義姉さんは、バリバリと仕事をこなすキャリアウーマンに見えた。

私の予想は当たっていたようで、お義姉さんから渡された名刺には、課長の肩書きがあった。

彼のお義姉さんというより、仕事の口調で話がはじまり、私は言葉を失うほど驚いた。



「半年先までお待ちいただく予定でしたが、年内のお式のご予約が可能となりました。

神殿をご希望と伺いましたので、仮予約をいたしました。

ほかに、深雪さんのご希望がありましたらお伺いいたします」


「お式とおっしゃいましたか」


「はい」


「誰のお式でしょう?」


「はっ?」



かみ合わない会話にお義姉さんは不思議な顔をして、私は予想外の展開に思考がストップした。