「でも、ユキちゃんは、なんだかなぁって思うんでしょう?」
「うん……」
順調ねと言いながら、ちいちゃんは私の迷いも見過ごさずにいてくれる。
その優しさが嬉しくて、「たいしたことじゃないからいいの」 と言っていた。
「よくない」
「えっ?」
「よくないよ。ユキちゃん、いっつも自分が我慢すればいいんだって考えるでしょう。
何が気になるのか、どうして欲しいのか、西垣さんにちゃんと言わなきゃ」
言いたいことを言えたらどんなにいいだろう。
父のように思ったことを口にして、相手が怒ろうが落ち込もうがお構いなし、そんな風にできたらストレスもなく生きていけそうだが、私にはできない相談だ。
「けど、言えないよね。ユキちゃん、優しいもん」
「優しくなんかない、気が小さいし、意気地がないの」
「そんなことない、優しすぎるだけ。でもね、言わなきゃいけないときってあるのよ。
いつか我慢が募り募って、不満が爆発するんだから。
うぅん、爆発できればいいけど、ユキちゃんは、苦しくても辛くても、それでも我慢しそうだな」
「そんなにすごい問題じゃないから」
「じゃぁ、なに?」
「感性の違いかな。風鈴の音が好きか嫌いか、こんなことにこだわるなんて、おかしいよね」
「おかしくない。大事なことだと私は思うな。感性とか価値観の相違って、
夫婦の危機にもつながるのよ」
「あはは……そんなの、おおげさだって」
「おおげさじゃない。本当だって」
小さい頃から仲の良い従姉妹は、これまでも些細なことで悩む私を励ましてくれた。
励ましながら、私の気持ちに寄り添ってくれるのだ。
「ありがとう」
「なにが?」
「話を聞いてくれて」
「そんなの、あたりまえじゃない。
私がいろいろ悩んでるとき、ユキちゃんにいっぱい聞いてもらったから、今度は私が聞くね。
話を戻すけど、価値観の違いって、ホント大事だから。何度も言うけど……」
力説するちいちゃんの声がだんだん大きくなって、大空くんの眠りを妨げるまでになり、やがてぐずりだした。
母親の顔になったちいちゃんが大空くんを抱き上げ、「ねんねしてね……」 と優しく語りかける。
体を揺らしながら赤ちゃんの背中をトントンと叩く、その間合いの絶妙なこと。
けれど、それで素直に寝てくれないのも赤ちゃんだ。
泣き声もやみウトウトしているのに、寝そうで寝ない大空くんにちいちゃんは苦労していた。
「片付けたら帰るね」 と小さな声で伝えて、「ごめん、助かる」 と、恐縮している従姉妹のために、
テーブルの上の片付けて、キッチンで洗い物を済ませた。
「今日はお昼を食べる暇もなかったのよ」 と言っていたと思い出し、目についた材料で軽食を作って
置いてきた。
手の込んだ物は作れなかったのに、「ありがとう、すっごく嬉しい」 と盛大に感謝されて、
「頂き物だけど、伯父さんに持ってって」 と、生酒のお土産まで持たされて気分良く家路についた。



