冬夏恋語り



結婚を控えた女性がそうであるように、私にも新生活への夢と希望はあった。

彼と一緒に新居を探したり、二人の好みの家具や生活用品をそろえながら家をととのえていく過程は、きっと楽しいだろうと思っていたのに 「合理的」 の一言のもとに楽しみはなくなった。

なんだかなぁ……

胸のモヤモヤは晴れそうにない。

部屋の空気を入れ替えて、気分を変えてみようか。



「部屋、暑いでしょう。窓を開けましょう」



彼の手をほどいて立ち上がり障子と窓を開けると、涼しい風が入ってきた。

風とともに、軒下につるされたガラス細工の風鈴も音を響かせ、

胸にこもった鬱屈した思いが、涼やかな音によって少し癒されたのに、




「9月の風鈴は季節はずれだな」



何気ない西垣さんの言葉が心にひっかかった。

秋風に夏の音色はそぐわないと言いたいのかもしれないが、好きなものを否定されたような気がした

のだ。

「季節はずれでもいいの。私が好きなんだから」 と言えればいいのだが、「けど、風鈴は夏だろう」 

と言い返されて気まずくなるのはいやだ。

音を和みと受け取るか、彼のようにただの音と受け取るか、それだけのこと。

当たり障りのないように 「そうだね……」 と、彼に寄り添う返事をした。







葡萄をいただいたから、ちいちゃんに届けてちょうだいと母に頼まれ、従姉妹夫婦が住むマンションに出掛けた。

もうすぐ二ヶ月になる大空くんは、ぷくぷくと太って可愛い笑顔を見せてくれるようになっていた。

夜中の授乳がとにかく大変よ、と嘆くちいちゃんの体は一段と細くなり、顔には疲れがにじんでいる。

脩平さんの仕事が忙しくなり、脩平さんが帰宅する夜中近くまで一人で赤ちゃんの面倒を見ていると聞き、大丈夫? と心配すると、



「うん、なんとかやってる。帰ってきたら、脩平さんが大空をお風呂にいれてくれるのよ。

そのときが私の休息かな。彼も仕事で疲れてるのに、これくらいしか手伝えないからって」


「わぁ、優しいんだ」



そうなの、と自慢するちいちゃんの顔は幸せそのものだった。

おっぱいを飲んだ大空くんが寝ると、「これからティータイムよ。付き合ってね」 と茶菓が用意され、

帰るつもりでいたのに引き止められた。

おしゃべりは気分転換になるそうで 「西垣さんと結婚が決まったんでしょう? 話を聞かせてよ」 と言われて腰をすえた。

嬉しい報告のはずなのに、どうにも弾む気持ちになれなくて 「うん、けど、なんだかね……」 と私は愚痴をこぼすように話をはじめた。

いきなり結婚の申し込みがあって、どんどん話が決まって、実家に同居することになりそうだ、期待がはずれたとため息混じりに話をすると、 どうして落ち込むのと言われた。




「ユキちゃん、実家で暮らせるなんて最高じゃない」


「そうかな」


「そうよ。西垣さん、地方に出掛けることが多いから、単身赴任みたいなものでしょう。

考えてみて。ユキちゃんだけ残るのよ。家で一人でご飯食べるのって寂しいわよ。

実家にいたら寂しくないし、それに、子どもが生まれたら遠慮なく助けてもらえるでしょう。

いいなぁ、私が代わりたいくらい」



ちいちゃんのお父さんは、彼女が高校の頃再婚している。

再婚当時、ちいちゃんはお父さんの態度に反発して家出をした。

いまでは良い関係だと聞いているのが、それでも、実家に帰ったり子育ての手助けを頼むことに遠慮があるそうだ。

私の悩みは、ちいちゃんからみれば贅沢な悩みだろうか。



「同居? それとも、新しい家ができてから結婚するの?」


「とりあえず、おばあちゃんの部屋を私たちが使うことになるかも。

二間続きだから広いし、日当たりもいいから」


「あの部屋は、家の中で一番良い部屋じゃない。伯父さん、喜んでるでしょう」


「すごく機嫌がいいかも。

今の私の部屋は西垣君の書斎に使えばいいぞ、なんて勝手に決めて、彼もその気になってるし」


「うんうん、順調ね。おとうさんとお婿さんが仲良くできたら言うことないわよ」


「かもね……」



結婚の先輩である従姉妹の言葉は、いちいちもっともで、ちいちゃんが言葉にすると明るくなる。