「純和風の家なんだ。お父さんの好み?」
「キッチン以外は、父の思い通りに造ったみたい」
「ここまで徹底できるなんてすごいよ」
母は居間をフローリングにしたいと希望していたのに、純和風を望む父は居間も和室だと言って意見を譲らず、結局母が折れた。
私が小学校を卒業する年に建てられた家は、どこから見ても純日本家屋で造りも凝ったものだ。
新築祝いに訪れた父の友人たちには大好評で 「素晴らしい出来栄えだ。さすが小野寺さん」 と絶賛され満足そうな父の顔を覚えている。
クローゼットとベッドがある友達の部屋が羨ましくて、ベッドに憧れていた私は、新しい家の自分の部屋もそうなればいいのにと願っていたが、 私の意見は聞かれることもなく家は出来上がった。
深雪の部屋は、材質にこだわったんだぞと父に言われたが、部屋を見せられて軽い失望感を覚えたものだ。
木の質感がいい、材料が吟味されていると、父が聞いたら喜びそうな感想を述べながら階段を上る彼を部屋に案内した。
まさか、私の部屋も和室だとは思わなかったのか、入るなり 「うわぁ」 と声があがった。
入り口こそドアだが、それも和風の仕上がりで、押入れがあり窓には障子がはめられ、畳の部屋にベッドなんてものはない。
「布団を敷いて寝るの?」
「そうよ。布団の上げ下ろしが日課です」
「俺みたいに万年床じゃないんだな」
「万年床なの?」
「そっ。朝起きて、帰ってそのまま寝るから便利だよ」
「お布団を干したりは?」
「しない。敷いとけば、部屋に入る日に当たるからさ」
「ダメよ、ちゃんとお日様に干さなきゃ」
「結婚したら、深雪が干してくれるんだろう?」
うん……と返事をしたものの、憧れのベッドの新生活ではないのかと残念だった。
いつの日か、フローリングの床の家に住んで、キッチンは対面式でと思い描いていた夢が、また遠ざかった。
窓から庭を見下ろしていた彼は、障子を閉めると私を引き寄せ唇を重ねてきた。
部屋に音が響くほど熱の入ったキスを受けながらも、階下にいる両親が気になり落ち着かない。
気持ちが乗らない私に気がつかないのか、彼の熱はますます上昇し畳に倒れこみ、
シャツをたくし上げられそうになり必死に抵抗した。
彼の手を拒んだことがない私が抵抗したため、どうしたの? と理由がわからないといった顔をされた。
「下の部屋に響くから……親に聞こえるかも」
「頑丈な家だから聞こえないよ」
「でも、今日は気になるの」
「気にしすぎだよ」
「でも、いや」
怒ったように強い口調で否定した私が意外だったのか、また 「どうしたの?」 と聞いてきた。
私の苛立ちは、下の部屋に聞こえるとか聞こえないとか、それだけが理由ではない。
結婚することになり新居も実家と決まったが、スッキリしない思いは残ったままで、いまになり、私に相談もなく西垣さんが父に挨拶を済ませてしまったことに釈然としないものを感じていた。
けれど、それを言葉にできない自分にも苛立っている。
私にできるのは、遠まわしに問うことだけ。
「ウチの親と一緒に住んでもいいの?」
「いいよ。そのほうが合理的だし」
「合理的?」
「そうだよ。俺は地方の仕事で留守が多いから、深雪が一人でいるより、
実家でお父さんお母さんと一緒の方がいいよ。そのほうが安心だし、経済的だしね。
もちろんお父さんに家賃は払うつもりだけど、新しく家を借りて引っ越すより手間がないだろう?」
確かにそうだけど……
二人の新生活を、合理的と言う言葉で片付けられてしまったことが哀しかった。



