冬夏恋語り



ふわふわと浮いた感覚のまま流れに身を任せ、気がつくと 「結婚の挨拶」 のセレモニーは終わっていた。

すっかりくつろいだ様子で、父と西垣さんは差し向かいで話をし、母も嬉しそうに加わっている。

話題は西垣さんの実家のことで、彼が両親は兄夫婦と同居していますと言ったことから、では結婚したらここに住んではどうかと父が言い出した。

二世代でも住める広さがあるが、庭に家を建ててもいいのだと、かなり具体的な話を持ち出している。

父も無理を言うものだと思っていると、お兄さんもいらっしゃるので、そういうわけには……とやんわりと西垣さんは断った。

養子でもないのだから、彼が断るのはもっともなことだと私は思ったが、それくらいで引き下がる父ではない。

なんの気にすることはない、私がいいと言っているのだからいいんだよと、かなり強引に迫ってきた。



「長男は転勤があるから、親と住むつもりはないそうだ。

私の仕事は深雪に譲るつもりだから、近くに住んでくれれば助かるんだが、どうだろうか」




私がお父さんの仕事を引き継ぐの?

結婚しても親の近くに住むの?

これでいいの?……と思いながらも、何に納得していないのか自分でもよくわからない。



「そうですね……僕も、もうしばらくは地方の仕事が続きます。互いの仕事のためにも

深雪さんは実家の方がいいかもしれませんね」


「おぉ、そうか。うん、そうしなさい」



父は手を打って喜び、西垣さんも同意したことで、私たちの同居は決まったも同然となった。

二人の話を聞きながら、結婚後の風景を想像してみた。

仕事で地方へ出掛ける彼を送り出すと、私は実家の敷地内の事務所に向かう。

仕事を終えて両親と食事をして、たまに帰ってくる彼を実家で待っている……

今と変わりない生活になりそうだ。

何もわからない新たな土地で新生活をスタートさせるより、環境に変化がないというのは、ありがたいことかもしれない。



母が 「本当にいいの?」 と私に聞いてきて 「うん……西垣さんがいいのなら」 と返事をした。

母と小声で話す間に、父と西垣さんは、両家の挨拶をいつにしようかと、カレンダーを持ち出して日にちを選び始め、私の意向が反映されることなく、どんどん話は進んでいく。

もっとも、どうする? と聞かれたところで気の利いた返事はできないのだから、これでいいのよ、これで……

父と西垣さんの話がまとまりかけたころ、お食事でもいかがですか、と母が言い出した。



「お嫌いなものはありませんか、遠慮なくおっしゃってくださいね」


「ありがとうございます。なんでもいただきます」 



西垣さんのハキハキとした返事に母は目を細めた。

これから食事を作るのかと思っていたら、馴染みの料亭から仕出しが届くことになっているそうで、私の知らぬところですべての段取りが整っていた。

娘のための結婚の挨拶の日というのは、こういうものなのかと、ぼんやりの私は母の手際の良さに感心するばかり。

兄のときはどうだったのか、全然思い出せないのだから、まったく人ごとだったのだろう。


「深雪、西垣さんをお部屋に案内したらどう?」 と母に勧められ、食事の準備ができるまで、私の部屋で過ごすことになった。

ここで話をしながら待っていてはどうかと父が引きとめたが、「せっかくですので、深雪さんのお部屋を見せてもらってもいいですか」 と彼に言われ、 父はしぶしぶ話し相手を手放した。

どこかほっとした顔の西垣さんを、二階の部屋に案内した。