冬夏恋語り



風呂敷包みのあとは、紙を使って箸袋と箸置きの折り方だった。

箸置きは使わないとの声には 「きちんとした食べ方が身に付きますよ」 と言い、箸袋は祝い事の席に添えるとテーブルが華やぐのだと説明があった。



「食事会や合コンで、ほかの女の子と差がつく裏ワザを披露しますね」



割りばしが入っていた箸袋をとり出した恋雪は、その袋を折り箸置きを作った。



「このように箸袋で作った箸置きに置くと、皿や茶碗に箸を預けるより、ずっとオシャレでしょう? 

男性へマナーの良さをアピールできますよ」



これには女子学生が食いついた。

折り方をもう一度お願いしますとのリクエストに、恋雪は丁寧に応じて数種類の折り方を披露したのだった。


講義のあとの質疑応答も積極的にかわされ、盛況のうちに出張講座は終わった。

来期も麻生先生の出張講座をやってほしいと、早くも声があがっている。

講義室に残って風呂敷や千代紙で包み方を復習する学生も多く、指導する恋雪も楽しそうだ。

中でも好評だったのが 「ワインボトル包み」 で、風呂敷の角をリボンに見立てた結び方を女子学生がこぞって覚えていた。



「ワインバッグより素敵ですね」


「風呂敷はラッピングですから、そのまま贈り物になりますよ」


「風呂敷も、オシャレな柄を選んで贈ったら喜ばれますね。

二枚重ねとか、豪華に見えますね」


「いいアイディアね。やってみましょうか」



恋雪を囲み、女子トークが続いている。

その様子を男子学生は遠巻きに見ていたが、元気のいいヤツが恋雪に話しかけ、それから男子の輪ができた。

男子学生は美意識とは何か、和文化の継承についてどう思うかなど恋雪に問いかけ、それへまた丁寧に恋雪が答えている。

そんなこんなで、恋雪は講義室からなかなか出られない。

この講義室はあとの授業がないこともあり、時間的には余裕があるのだが、学生たちに彼女を取られて少し面白くない気分でもある。



「そろそろ片付けに入ってください」



いつまでも 「麻生恋雪先生」 にくっついている学生を追い払うように、俺はわざと無表情で片づけを促す声掛けをした。

声掛けは効果があり、名残りおしい顔で学生たちが退出していく。

ただ立って待っているのも所在無く、箒を持ち出し、たいしたホコリもない講義室を掃いていると、残っていた学生が掃除に加わってきた。

片づけをはじめた恋雪の手伝いをする者もいて、後始末と掃除がおわると 「ありがとうございました」 と元気な挨拶があり、ようやく全員が立ち去ったのだった。

いつもの講義のあとより、格段に綺麗になった講義室は気持ちがよい。

恋雪の 「気遣う心」 の講義が、すぐに形になったようだ。



「お疲れ様、楽しそうだったね」


「お疲れ様でした。楽しかったし、みんな熱心に聞いてくれたから、すごく嬉しかった」


「来期も麻生先生をお願いしますって、学生たちから頼まれたんだけど」


「私でいいの? ピンチヒッターだったから、ちゃんとできたかどうか、心配なんだけど」


「今回は準備期間も短かっただろう。次は余裕をもって頼むつもりだから」



出張講座は一年間通して行われ、講座内容と講師は前もって決まっている。

今回は予定していた講師の都合がつかなくなり、急遽恋雪に代理を依頼した。

代わりの講師が見つからず講座の中止も考えたが、恋雪のおかげで無事に今期の予定を終えることができた。

ピンチヒッターと彼女は言うが、学生の反応は上々、今期一番の盛り上がりだったのではないか。