矢部さんの言っていることは正しい。
俺が今一番大事にしなければならないのは恋雪なのだ。
恋雪の方をちらっと見る。
彼女はまだそっぽを向いていた。
「矢部さんのおっしゃる通りね。いまが大事よ。
矢部さんのお話でよくわかったわ。ねぇ。恋ちゃん」
愛華さんの言葉にうなずくのかと思ったが、恋雪は肯定も否定せず、顔から表情を読み取ることはできない。
案外強情な性格のようで、恋雪の意外な面がみえた。
「いえ、それほどでも。褒められついでに言わせてもらえば、たとえば、別れた彼女が今でも一人で子どもを育てているとしたら、西垣さんに愛情があるということでしょうね。
西垣さんも、恋雪さんとおつきあいがなく、ひとりだったら、別れた彼女を思っていると言うことでしょう。
でも、どちらもそうではない。よりを戻すのは無意味だってことです。
僕も離婚していますけれど、別れた妻はとっくに再婚して、僕も意中の人がいますから」
そう言いながら、矢部さんは愛華さんを見たが、愛華さんは矢部さんの視線には気がついていない。
それどころか矢部さんの話の途中でハッとした顔になり、それから深く考え込んでいる。
愛華さんは大事なことに気がついたのだ。
別れた夫と愛華さんの間に、まだ存在している愛情について考えているはずだ。
ミヤさんとヨネさんはニヤリと口元をゆるませ、ハルさんは何かに納得した顔だ。
それまでそっぽを向いていた恋ちゃんも、俺へ同意を求めるように目くばせしてきた。
その顔へ、大きくうなずいてみせた。
さしあたって俺がやることは、恋雪と仲直りすること。
それから、ふたりのこれからについて話すことだ。
矢部さんは、まだ得意そうに語っている。
自分が喋りすぎた男になっているとも気がつかずに。



